第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
「おのれ、小娘が、侮辱しやがって・・・!!」
ヨムニフは憎悪の黒い炎を燃え上がらせると、フィヲに狙いを定めた。
周囲の傷ついた騎士たちは恐れ慄き、立ち塞がることも、大声で彼女を呼ぶこともできなかった。
ボーッと炎がフィヲに纏(まと)い付く。
それを見てやっと騎士たちは声を上げた。
フィヲは黒い炎に包まれたことに気が付いていたが、今はそんなことに構っている場合ではない。
一切、魔力を使うことなく、炎を恐れることすらなく、そのまままっすぐ、最上階を目指していった。
邪師ヨムニフが放った死滅の炎は、一人の少女のロニネの前で、何らの力もなく途絶えてしまった。
激怒したヨムニフがフィヲを追おうとしたので、この時ばかりは王国騎士たちも剣を抜き、盾を構えて集団で飛び掛った。
杖で打たれ、盾を溶かされ、剣を折られても、次から次へと騎士たちが集まってくる。
ヨムニフは詠唱を妨げられて、魔法の発動は止められる、遅らされる。
しかし、このままでは新たに死傷者が出るだろう。
その時、城内に大型の機体が突入してくるのが分かった。
「騎士たちよ、離れろ!」
最も近くにいた者たちがヨムニフを抑えつけている間に、階上へ、階下へ、皆急ぎ退避していく。
ドーン、という爆音と砲火が上がって、階段の真ん中にいたヨムニフ目掛けてミサイルが撃ち込まれた。
爆風を盾で防いで飛び退(の)いた騎士たちはいいが、標的とされたヨムニフは黒煙に捲かれて姿が見えない。
全員が離れた所を、もう一発、ミサイルが撃ち込まれた。
ガクガクとぎこちない足取りで、完全には避(よ)けきれなかったヨムニフが、自分を撃ったのが誰か探している。
騎士たちは次々に武器や城内の飾り物などを投げつけた。
外から機兵が入ってくる。
10機、20機、・・・すでに城は包囲されていた。
トーハに頼まれてファラとフィヲが弾に込めた魔法が発動している。
アンチ・グルガ。
アンチ・トゥウィフ。
ヨムニフを囲う攻撃型ロニネ。
こうして邪師はメレナティレ城の一階から出られなくなった。