第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 04 節「後継の時」
ついに王城メレナティレへ攻め入ったファラは、王の間にホッシュタスの姿を見出(みいだ)すと、猛然と襲い掛かっていった。
魔法の応戦ができない王国騎士たちとホッシュタスを、絶対に接触させてはならない。
ファラが追ったのでホッシュタスは不気味な笑いを浮かべながら逃げた。
階段を上り、屋上へ誘い出そうとしている。
その様子にゲラゲラと声を出して嘲笑したヨムニフは、攻め寄せる兵など眼中に入らない様子でつかつかと王の間を出ていった。
途中、彼を知る王国兵が道を阻み戦いを挑むと、暗黒色の球体で滅多打ちにされ、次々に殺されてしまった。
皆、昨日までヨムニフ配下の兵だったのである。
だが国民を顧みぬ王政と、家族を守って避難させてくれたファラやフィヲを見比べると、長年の鬱積もあり、LIFEに協力することに決めた。
その彼らが、邪師ヨムニフの手にかかってバタバタと倒され、死んでいった。
交戦すれば必ず殺される。
誰かが反乱を起こすまで黙って追従してきた騎士たちだ。
死ぬと分かっていれば恐かったし、ヨムニフを包囲しても遠巻きだった。
「役立たずのクズどもが、最後の邪魔をしに来たか。
だがな、役立たずは生きても死んでも役立たずでしかない。」
黒色のバリアがバチバチと音を立て、黒い火花を散らした。
侮って触れた者は、骨まで焼失してしまった。
「わ、わああああああ!」
後にも先にも逃げ場はない。
誰一人として逃走はしないが、ヨムニフから離れて壁や柵の所まで退避していた。
快感を覚えたヨムニフは、気まぐれに杖を振り下ろして石の床で暗黒球を弾けさせると、その破片が飛び散り、周囲の兵士らを無作為に殺傷した。
「ぐおおおおおお・・・。」
王城の地階と2階は阿鼻叫喚の地獄となった。
人間の肉がジリジリと焦がされて溶け落ちる様は恐ろしいが、においもまたおぞましい。
吐き気を催して床に倒れる者も続出した。
そこへフィヲが駆けつけた。
「動ける人は、倒れた人を外へ連れ出して!
お城の中は任せて!!」
倒れている者、死に瀕している者にも声をかけながら、彼女自ら悲観を打ち破っているようだった。
ヨムニフとは目も合わない。
フィヲの瞳には、ヨムニフなど映じもしなかった。
横を走り抜けていく。
すれ違いざま、傲岸な術士を一人突き飛ばしてしまった感覚すら、次の瞬間には消えていた。