第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
一時、森を赤く染めたテンギの炎は鎮まった。
灰竜アーダが魔力を使い果たしてソマの近くへ降り立ち、座り込んでしまった。
ソマは息を切らしていた。
両手を膝に着き、肩で呼吸している。
そこへヱイユも戻ってきた。
著しく体力を消耗している上、相当なダメージもある。
「ソマ、すごい使い手になったな。」
返答がないので心配して顔を見ると、彼女は意識を失いかけていると分かった。
ヒユルとテンギの強敵二人を、一手に引き受けているのである。
ヱイユの意思を受けて、アーダが姿を消す。
彼はソマに、全ての魔法を解くように言った。
限界まで魔力を使い果たしてしまえば、生命に及ぶ危険があるからだ。
しかし彼女は懸命に意識を保とうとしている。
「頼む、ソマ!
一度この場を離れよう。
奴らをリザブーグに入らせなければいい。
長丁場を想定していたが、続かないようだ。
すぐ立て直そう。」
こう言って肩を揺すっても、ソマは頑として敵に集中しようと努めていた。
「それなら俺がテンギを引き受けるから、なあ、ソマ、お前がもたなくなっちまう!!」
「嫌よ!
せっかく捕らえたんだもの。
別に死んだっていいじゃない。
この生命に変えても・・・!!」
ヱイユはハッとした。
ソマがどうかしている。
“LIFE”を見失ってしまったように・・・。
「お願いだ、死ぬなんて言わないでくれ!
俺はお前がいなくなったら・・・。」
その時、テンギを雁字搦(がんじがら)めにしていた地縛、ヒユルの魔力を限りなくゼロに抑え込んでいた消失が、すーっと解放された。
対戦前にそっぽを向いて以来、初めてヱイユの方を振り返ったソマは、実に悔しそうな、そして悲しそうな表情を見せた。
『もっと力があったなら・・・!!』
彼女の心の叫びが聞こえたようだった。
ヱイユはソマを抱きしめると、今日のかつてない恐怖を凌駕させた興奮状態から彼女を連れ戻すため、そして二人の中で抑えられなくなった感情を次なる力へと昇華させるために、この上ない真情で口づけた。