The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」

第 21 話
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苦しい戦いになった。

今どうしても、ソマに話しておかなければならないことがある。
ヱイユは一気に攻勢をかけた。

戦闘力の秀でた者でも、自分と互角の相手と戦い続けて余裕などあるはずがない。
大地からの供給を得たからこそ打って出ることができた。

彼はこの時、10本の手、10本の脚を持つテンギに、圧倒的不利を印象付けておきたかった。

斬って傷つけて負かすのではない。
殺傷力のある数多(あまた)の武器を以ってしても、不殺生の“LIFE”戦術に全く刃が立たないということを、テンギの二十一体に刻みつけてやろうと思った。

振り下ろされる斧を、妖刀ヤマラージで受けて跳ね飛ばす。
拳を肘で打ち返し、ナックルを砕く。
「フィナモ」に対するアンチ空間を現出し、その不意に強撃を叩き込む。

テンギはよろけて後退し、今なぜ魔法が発動しなかったのか、混乱に陥っていた。

それもそのはず、彼は術士ホッシュタスに言われる通りにファラのフィナモを扱うだけで、現象が起こる原理も、他の魔法の知識もまるで持っていないのである。

激しく動いて息苦しいが、ヱイユはここで手を休めることはできなかった。

相手が動揺しているからこそ、更なる痛手を被らせるべきだ。

巨大な両手槍の先端を、ヱイユの胸元目掛けて突きつけてきたテンギは、今度こそ殺ったと確信していた。

もし、体表に張り付くロニネがなかったら、ヱイユも直撃を食らって貫かれるところだった。

強靭な肉体を有するテンギの一撃一撃は、恐ろしく威力が高かった。
斧も、トリプルソードも、ナックルも、守りがなければひとたまりもない。
そこはヱイユの魔力と防御力もあって、持ち堪え、弾き返すことができていた。

しかし物理攻撃の主力であるテンギの両手槍は、個々の武器に倍する威力と言うにも余りあった。

両腕を組み合わせて打撃を受け止めたつもりが、後方遥か100メートルも飛ばされてしまったのである。

ハッと、我に返ったのはソマだ。

テンギの標的が、自分の方へ向いている。

恐怖を怒気で吹き飛ばして、ソマは杖を身構えた。
木製の、極めて強度の低い杖だ。

しばらく待てばヱイユが立ち上がり戻ってくるだろう。

だが彼女は今、シェブロンの弟子として、他の誰のことも頼らずに、自分の力で目の前にいる最悪の強敵を打ち負かさずにはおかないと、不動の意思を固めていた。

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