第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
敵と言えど、助かる生命は助けなければならない。
せっかく追い詰めていたものを。
元よりテンギが放った炎ではないか。
ヒユルが飲み込まれてしまえば、それに越したことはない。
そんな考えが僅(わず)かにあった。
ソマが駆け寄ると、ヒユルはヒステリックを起こして、総力で付近に水を撒いていた。
「助けてあげる。
抵抗はよしなさい。」
「ペッ。
この、豚女め!
早く解きやがれ!!」
パチンと、ソマはヒユルの頬を打った。
メラメラと燃える炎で、彼女の衣服や髪も焦げていた。
脚の力でバサッと飛び退(すさ)ったヒユルは、ソマから離れ、大声で叫んだ。
金切り声が耳に不快な響きを残す。
「今度会ったら覚えとけ!
ずったずたにしてやるからな!!」
「いいえ、逃がしはしない。」
走って行こうとするヒユルが、見えないバリアに当たって転倒した。
後ろから追いかけたソマが、手を引っ張って立たせる。
そこでガツン、と杖に突き飛ばされ、ヒユルは二重によろけた。
倒れたところを魔法が捉える。
「火はここまで来ないでしょう。
生命を奪うつもりも、あなたを逃がすつもりもないの。
ただ場所を移しただけ。」
魔力を吸い尽くされた体で、炎を避けるため、微々たる総力のパティモヌを使っていた。
ソマの重力はヒユルを再び地面に伏させている。
大地の力はもはやこの女を逃がさなかった。
振り返ると、アーダが飛び回って火を鎮めていたが、激しく打ち合うテンギとヱイユの勝負はつきそうもない。
『私一人でヒユルを捕縛したまま連れ帰るのは無理だわ。
馬車と数人の術士がいなければ・・・。』
ヒユルにヒーリングを与えれば魔力を取り戻してしまうだろう。
しかし魔法を発動できない程度に奪いながら、眠らせておくことはできないだろうか。
体温に心地よい熱と風を与え続けることにした。
『しばらくそこにいなさい・・・。』
初めて対テンギの戦場に立った。
「ソマ、大丈夫か?」
「ええ・・・。
でも、ううっ・・・。」
うぞうぞとくねる手足が、人間の体であるとは。
ソマは気分が悪くなって後方へ退いた。
大地からのヒーリングを再開させ、ヱイユにも与える。