第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
ヱイユの背後に、灰竜アーダが現れてテンギの左右へ分かれる。
戦法はもう決めてあった。
彼は自分とアーダに、そしてソマに魔法をかけた。
水の流動性とロニネのバリアを合体させて、体表にぴったり張り付く守りを得る。
相手の出方も窺っていかなければならない。
テンギは巨大な両手槍、戦斧(せんぶ)、トリプルソード、ナックルを一対ずつの手に持っている。
そして残る一対の腕は胸の前に組んでいた。
ガツン、ガツン、とヱイユに斧が当たり、ナックルが当たった。
彼のロニネは打たれる力に等しい力を相手に返す。
テンギは自らの打撃を喰らい続けた。
アーダも、一撃、二撃、三撃と、体当たりしてダメージを与える。
怪物のような姿をしているが、テンギも人間だ。
五感は全て備わっている。
痛みで攻撃が止まった。
ふいに剣の柄でテンギの腹部を打ったヱイユは、そのまま剣先を胸に突き立てる。
変幻自在の妖刀は、先端が槌のようになった。
背の高いテンギの胸部は高く、下から突き上げるように、ドゴン、と打撃が加わると、テンギの腕組みが解けた。
手と手の間に炎が燃え上がった。
どこかで感じたことのある現象だ。
『これが、ファラのフィナモか・・・。』
ファラが放てなくなった替わりに、テンギの意のまま少年のフィナモが操られるとしたら。
どんな凶器よりも危険である。
ヱイユが大きな球状の水を集め、そこへぶつけていく。
相手の発動を上回る水で、一時は消え去ったかに見えた。
だが、忽(たちま)ち、テンギの足元に炎が燃え広がる。
まだ生きている草や木々の水分を飲み込んで、辺りは地獄の業火のように、真っ赤に染まっていた。
ソマが駆け出した。
彼女もロニネをかけてもらっていたが、足が竦(すく)んで近付くことができないでいた。
「ヱイユくん、火は私が消すわ!」
ヱイユは黙ってヒユルの方を示し、代わりにアーダに消火させるという。
身動きの取れないヒユルの方にまで、火の手が回っていたのである。