第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
ソマは戦うことによって、久しく忘れていた自分らしさが戻ってきたと思った。
警戒を強めつつ、内心は嬉しい誇らしい気持ちになっていた。
時々、ヒユルが呻(うめ)き声を上げる。
「お、お前、あたしを殺す気か・・・?
だったら早くやればいいじゃないか!」
未知の力を秘める相手だ。
今は手の内にいるも同然だが、思いを寄せているというヱイユの姿を見たらどうなるだろうか。
この森も、封印の地ディスマを中心とする五芒星によって、数百年に渡り充填され続けていたエリアの内である。
大地のエネルギーは豊富で、このままの状態ならば相手に逃げられる心配もない。
だがもし、ヒユルに味方が現れたら・・・?
まだ若い娘のヒユルは、悪魔カコラシューユ=ニサーヤの力も得て、尋常でない回復力を持つ。
抑えつけているソマが一番よく分かっている。
普通の人間程度にまで魔力を奪った後、回復量に相当する分だけ絶えず大地に吸わせているのだ。
ソマ自身も大地からエネルギーの供給を受け続けていた。
したがって、今のソマは完全にヒユルに釘付けになっているとも言えよう。
足に根が生えたように、ほとんど歩き回ることもできず、万が一、新手の敵が来たらと思うと冷や汗が出る。
そこへヱイユが戻ってきた。
最凶の敵、テンギを連れて・・・。
「ヱイユくんッ・・・!!」
ヒユルの存在を、声に出して言いたくない。
意識していることを認めたくないのだ。
あるいは、恋敵と知った憎しみから、身動きが取れぬよう封じ込めているのではないかと、自ら錯覚に陥りそうにもなった。
実際の問題として、テンギがヒユルを助けるようなことにでもなれば、戦局は一転して不利になってしまう。
彼女が目で示した樹木の場所を見ると、ヱイユは全て了解した。
そして動揺することなく、最初の一太刀をヱイユから打ち込む。
飛行から急に旋回して、振り向きざまテンギの額を狙ったのである。
ガツン、と金属の小手に当たった。
腕の力で振り払われる。
「やっと死に場所を決めたな。
・・・存分にやらせてもらうぞ!!」