第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
ソマは疲れているせいか、少し弱気になっていた。
結界に閉じ込められたこと、更には未知の強敵、それも最も危険な敵の一人である魔天女ヒユルと対峙しているのだ。
心が不安になり、汗が滲み出してきた。
ヱイユとの仲を見せ付けて挑発してやるなどと言っていたが、先の出来事は誰からも見られていないつもりでいた。
それを敵に、しかも恋敵に、演技ではなく真情の姿を見られてしまった。
恥ずかしさと悔しさで、次第に気が立ってきた。
「ヱイユはどこへ?
お前一人じゃ死ぬよ。
1分ともたないだろう。
大声で呼んだらどうなんだ。
どんな関係か知らないが、彼の口からも糾してやる。
・・・それとも、無様な死んだ面(つら)でも晒してやろうか。」
なんて高飛車(たかびしゃ)な女だろうと思った。
むらむらと怒りが込み上げてくる。
「初めて見た。
あなたがヒユルね・・・!!
こんな結界に閉じ込めておかなければ、私をどうにもできないの?」
ヒユルが顔色を変えた。
一瞬で怒りが頂点を突き抜けてしまった。
「気色の悪い女だ!
その憎たらしい体、ぐちゃぐちゃにしてやる!!」
男と女を表す青と赤の人型が、左右に逆さに吊るされたロッドをヒユルが振りつけた。
するとソマ目掛けて悪魔カコラシューユ=ニサーヤが、物凄い勢いで襲い掛かってきた。
身を低くして横へ飛び退き、ちらと見た相手の足元へ、ソマはこの体勢から起こしうる最大限の突震を繰り出す。
ヒユルが高く飛んで、無抵抗に地面へ叩きつけられた。
腰を強く打ったようだ。
今度は旋回して戻ってくるニサーヤを睨みつけ、ソマは魔法を放った。
「アンチ・メゼアラム」である。
黒紫色の妖気が渦を巻いて拡散し、大地へニサーヤを引き戻す。
一方のソマの体は、大地からのヒーリングで緑色の光に包まれていた。
「さあ、来なさい・・・!!」
ヒユルをもっと悔しがらせてやろう。
ソマは立てない相手をゾーで地面に縛りつけながら、水平に広がるトゥウィフを円形に走らせた。
二人を閉じ込めた結界が破れ、広々とした森の空気に溶け込んでいく。
「来ないのなら、そこで眠ればいい・・・!!」
「う、うわああああ・・・!!!」
ヒユルは植物に絡みつかれて身動きが取れなくなっているのに気が付いた。
だがこれではもう遅い。
甲高い悲鳴が森中に響き渡った。
ソマが大地からエネルギーを吸い上げながら、その力を借りてヒユルの体に満ちていた魔力を大地へ還す。
ニサーヤと同じ、黒紫色の喪失だった。