第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
千手の鬼神テンギがいよいよリザブーグへ向けて発つと知ったヱイユは、メレナティレ市街の警備機兵に上空からの爆撃を加えた後、一度ソマを森へ下ろしに行った。
「タフツァの一行がリザブーグに入った。
ファラとフィヲも呼応してくれている。
もし敵に遭ったら、時間を稼ぎながら戦っていてくれ。」
「自分の力量は分かっているつもりよ。
ヱイユくんが戻るまで、ここは誰も通しません。」
「無理に戦うと危険だ。
テンギ以外の相手に力を使うな。」
ふいに顔を背けて何も言わなくなったソマを、ヱイユは少し心配した。
優しく肩に触れながら彼女の名前を呼ぶ。
「あなたばっかり力をつけて、私は役に立たないみたいじゃない!」
こう言って彼の方へ寄り、胸を打つのである。
「ソマ、頼りにしている。
お前は実戦に臨んで、誰にもできない働きをしてくれる。
・・・戦いが終わったら、教壇に立つ姿も楽しみにしているよ。」
しかしソマは、ぷいっと、そっぽを向いて顔を合わせようとしない。
「未来に渡り、お前を必要としている人が大勢いることを忘れるな。
俺がお前を心配するのはそのためだ。
絶対に早まってはいけない。」
二人は、この世に生まれ巡り合った絆が、未来へつながるものであることを願い、強く抱きしめ合った。
離れ際、感傷的になっているソマの目を覚まさせるように、ヱイユは彼女の両肩を強く叩く。
それでもまだ情念が断ち切れないので、幼少時よくやったように、彼女の耳を引っ張り、わざとはっきり言った。
「さあ、ここは戦場だ!
気を抜けば敵に討たれるぞ!
・・・ほらっ、一撃、受けてみろ!!」
カーン!
ヱイユの剣と、魔法を込めたソマの杖がぶつかりあった。
もう寄り添うという選択肢は、彼女にも、自分にも与えない。
子供の頃、チャンバラ遊びをした後のように、力いっぱい弾き合って、腹の底から笑い、互いに拳を見せてその場を別れた。
一人になったソマは、周囲に何かいないか、警戒を強めていった。
兵士が来るか、機械兵に遭遇するか、あるいはレボーヌ=ソォラで多く目にしたような、何かの怪物が出るか。
しばらくの間、風が木々の葉を鳴らす音しか聞こえなかったが、ある時突然、異変に気が付いた。
「結界の、中にいる・・・!!」
女の甲高い笑い声が起こって、茂みの奥から艶やかな身なりに丈の短いローブを羽織ったヒユルが姿を現した。