第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
「きゃっ、大変!
ちょっとこれ持ってて!」
料理のことを思い出したフィヲは、慌てて鍋を見に行った。
幸い、吹きこぼれただけだった。
「最高の作戦だ・・・!!」
「えっ?」
「いや。
いいにおいだね。」
「えへっ、そうでしょう?」
「うん、フィヲ、おいで。」
褒められたので、早足にファラの所へ来たフィヲのことを、強く抱きしめる。
「わあっ・・・。」
「フィヲ、これを見て怯えていたのかい?
大丈夫、もう一度、セト国と戦った時の力を出そう。
きみがいてくれれば、全部あの時と一緒じゃないか。」
「ファラくん・・・!!」
この上ない愛情で、彼女の頬に口をつけてやると、ファラは語気を強めて言った。
互いの感傷を振り払うように。
「敗れることは許されない!
ぼくはきみを信頼する。
ヱイユさんを信頼する。
タフツァさんもソマさんも、ザンダたちも。
LIFEの同志だもの。
途中は生命の危険にさらされ続けるかもしれない。
だけど勝って、あの城に“LIFE”の旗を打ち立てるんだ!
その時のみんなの喜びを、とびきりの笑顔を、ぼくときみとで作る戦いだよ。」
「・・・うん。」
ぐつぐつ煮え出した鍋の方へ歩み寄ったファラは、ふたを取り、かき混ぜながら湯気を吸い込んだ。
「きのこのスープなの。」
「上手だね。
早く戦いを終わらせて、またこうして過ごそうね。」
珍しく赤くなって何も言えないフィヲに、ファラは「髪飾り」を手渡す。
以前、リザブーグの街で少女リーシャがくれたものだ。
「ぼくは着けられないから。
魔法使いムヴィアの髪飾り。」
「ええっ!?
おかあさんの・・・。」
「うん。
・・・ほら、この剣。
これは、父さんのものだよ。
ずっと使っていなかったから、リザブーグの鍛冶屋さんに鍛え直してもらおうと思って。」
フィヲは嬉しそうに髪飾りを差してみた。
そんな折、玄関で音がして、外からトーハが帰ってきたようだ。
「はっはっは、本当の夫婦にでもなったのか。
・・・おおおっ、それは!!」
実際にムヴィアが身に着けていたのを見て知っているのはトーハだけである。
「ファラ君、きみがつけても似合うと思っていたが、・・・やはりフィヲにぴったりだな!」
明るい笑い声が弾ける。
ファラは髪飾りを手にしてからというもの、丹念にそこへ込められた魔法を解析した。
身に着けていると、内なる魔力の放出を抑制し、外からの魔力を集める効果がある。