第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」
「リザブーグ」と呼ばれ、古くから騎士たちに守られた王国は、首都を「メレナティレ」へ移して約半年、俄(にわ)かに崩壊してしまった。
17年前、悪魔が大空を埋め尽くした事変の後、権力の集中を反省した彼らは、憲法を定めることで国王の力を制限した。
そして近年、歩兵・騎兵による原始的な軍隊編成から、「機械兵団」の強化へ国策を変えてきた。
警備はロボットに取って替わられ、騎士たちは職を失い巷に溢れるようになった。
魔法革命家シェブロンは30年も前から、広大な国土を持つリザブーグ王国が「封印の地ディスマ」を抱えていることを懸念し、警戒もしてきた。
そこに眠るものが「死滅の古代魔法グルガ」であることを、文献によって突き止めた。
いかに危険な魔法でも、「グルガ」が封印されたままでは、世界中に起こっている紛争の解決、世界大戦の危機は回避できない。
なぜかといえば、「グルガ」もまた、“生命”が持つ性質の一つだからである。
万物の根源である“生命”に、一部発現できない力があるとすれば、彼の理想である“LIFE”は偏頗(へんぱ)なものとなったであろう。
「グルガ」が解放された場合、その正しい用途を一番先に教えなければならない国がある、と彼は考えた。
つまり「グルガ」の発動、及び利用が可能となった時に、最もひどく過(あやま)つと危惧される国が、リザブーグ王国だったのである。
当時、彼とは正反対の目的で、「古代魔法グルガ」を欲していた男がいる。
それがヨムニフだ。
シェブロンは、王国騎士としてLIFEのメンバーに加わっていたノイとツィクターを通じ、王政下のリザブーグで味方となる者を探していた。
そんな折、ヨムニフが味方を装って紛れ込み、様々な知識を盗んで帰っていた。
「封印の地ディスマ」を中心として、リザブーグ王国の国土に点在する5つの塚。
正五角形を形成しているその5つのうち、一つでも効力を失えば、「古代魔法グルガ」の封印が解けてしまう。
ヨムニフは王立図書館のどんな本にも書かれていなかったシェブロンの博識に舌を巻くとともに、研究者として押さえることのできない嫉妬心が燃え上がってくるのを感じた。
そしてそれを恥じるのではなく、正当化した。
目の前に、全人類的視野に立って“LIFE”という究極の魔法を探求し、行動し続ける指導者がいる。
なるほど彼の理想が現実のものとなったら、人々は内なる光輝に目覚め、幸せに暮らしていけるに違いない。
しかしそれがどうしたというのか?
他人の幸福が何だというのだ。
虐げられてきた半生、いよいよこれからは野心を遂げて、世の中の人々を混乱に陥れ、苦しめ抜き、虐げて、帝王の座に即位し君臨する方が、遥かに面白い。
塚を焼き払ってついに「グルガ」を手に入れた後、彼の頭脳はただ一つの考えに支配された。
『シェブロンさえいなくなれば、この世を動かすものは恐怖、支配と服従、そして殺戮。』