The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 03 節「帝都の暴政」

第 02 話
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夕方、騒々しい足音とともに、王の間へ武装した兵士たちが詰め寄せていた。
部下に両手両足を押さえられ、怒りに気が狂ったカザロワの所へと続く赤い絨毯(じゅうたん)の上を、ヨムニフがつかつかと歩いていった。

人間の表情として、これほど醜い顔があるだろうか。
野心と虚栄、虐待心、嘲弄、手柄を立てられる喜悦が入り混じっている。

ヨムニフはこの肉体を得てから初めて自らの手で人を殺められることに興奮していた。

「ふはは、言い残すことはあるか。」

失望と激しい憎悪に見開かれたカザロワの目がヨムニフを睨む。
が、急に弱弱しく、媚び入るような面持ちに変わった。

「たのむ!
あんたの手下でも構わねえ、命だけは助けてくれっ・・・!!」

ガツン、と鈍い音を立てて、ヨムニフの杖がカザロワを横殴りに打った。

頭を両手で抱えて倒れ込むカザロワの首を、獰猛な兵が掴んで無理やり持ち上げてしまう。

「よう、今まで散々、こき使ってくれたよなあ?」

他の兵が王の体を蹴ると、兵士たちは我も我もと掴みかかり、殴り、蹴飛ばし、髪の毛をむしった。

「ぶははっ、やれ!
やれ!
だが、殺すな!」

赤い絨毯の上へ黒い血液が滴り、だんだんと染まっていく。

とどめはヨムニフが踏みつけた。

「ヘッヘッへ、ここまでにしておくか。
・・・おいっ、持ち場へ戻れ!」
「ははあっ!」

去り際に首を掴んでいた兵が、カザロワの腰に膝蹴りを食らわせ、唾を吐きかけて退出していった。

「無様だなあ、おい。
ぼやけた意識でよく見ておけよ、メレナティレはテンギに明け渡す。」

暴行により死に瀕したカザロワにとって、それは最大の打撃となった。

愚鈍だが善良な兄を殺害し、王位を簒奪したことの報いがこれかと、初めて悔いた。

死にゆく者の耳には強すぎるラッパの音が、右から左から、王の間いっぱいに鳴り響くと、ヨムニフの手で掴み上げられたカザロワの死に目には、およそこの世のものと思えぬ恐ろしい人物の姿が2つ、映じていた。

5対の手足を持つ怪人テンギ、そして魔性の権化かという巨体を揺るがして進み来るのはどこか異国の王族か。

「邪魔だ」と言わぬばかりに、湾曲した大刀で、片手で薙ぎ払われ、左の床へ転がったカザロワは、自らの体液と血液が床に飛び散るのを見、今朝まで彼の室であったその場所に、元家臣たちの馬鹿笑いが渦巻くのを聞きながら事切れた。

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