第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」
女性の勘で、ソマにはすぐそれと分かってしまった。
「あははっ、ヒユルに好かれているのね?
それなら簡単じゃない。
私とヱイユ君が親しくしている様子を、ヒユルに見せつけてやればいいんだわ。
そうすれば私はヒユルのターゲットになれるでしょう。」
真っ向から対決することもまた危ない。
否、それが一番、生命の危険を孕(はら)んでいた。
ソマの戦闘力を疑うわけではないが、ヱイユに深手を負わせた、あの「ニサーヤ」の力を得ているヒユルと、一体どう渡り合おうというのか。
ここでタフツァが話し出した。
「敵の動向は僕たちが知ってさえいればいいんじゃないか。
彼らが何をしようとしているのか、もちろん止めに行かなければならない場合もあるだろう。
僕たちにとってそれよりも重要なのは、僕たち自身の目的なんだ。」
その通りである。
“LIFE”を継ぐ者にとって、今最もやらなければならないことは、師シェブロンの救出なのだ。
ヱイユは知り得た情報の全てを皆に話していった。
メレナティレ王カザロワが北の大陸オルブームを侵攻しようとしていること。
彼の眷属である竜王ゲルエンジ=ニルが生命と引き換えに彼らの渡航を食い止めてくれていること。
メレナティレへの外部からの入国は禁じられていること。
また、イデーリア大陸の内戦の顛末(てんまつ)。
ザンダの生い立ちと家臣たちの動き。
新しい仲間であるルアーズ、サザナイア、アンバスのセト国復興への尽力。
更に術士ホッシュタスと、「千手の鬼神」と呼ばれるテンギの、王国港ミナリィへの入港・・・。
テンギを追ってフスカ港へ入ったファラとフィヲを、すでにトーハの元へ潜入させていること。
コダーヴ市でキャンプ中のLIFE騎士団にリザブーグ入りの準備を整えてもらっていること。
これらを聞き終わってから、再びタフツァが話し始めた。
「敵も動いているが、味方の動きも本当に心強い。
それぞれの情勢を知悉(ちしつ)している君が、今一番、僕たちに望んでいることは何だい?」
「俺自身はテンギを引き受ける。
リザブーグ入りは絶対に食い止めたい。
現地に家族を持つLIFE騎士団の皆と約束したんだ。
ゲルエンジ=ニルはすでに死んでいて、竜族が持つ世界への影響の余韻によって、新港メレナティレとオルブームを結ぶ海峡に渦潮を起こしてくれている。
やがて海は静まり、渡航と侵略が始まるだろう。
それまでにテンギとケリをつけて、俺はオルブームへ渡る。
カザロワ軍を追い返すつもりだ。」
ソマはヱイユが自ら背負ったものの大きさに身が震えるようだったし、彼の力になりたいと心から思った。
「ヒユルは、ヱイユ君の邪魔をするかしら?
それなら私も、テンギとの戦闘に加わります。
ヒユルが来たら引き付けて、私が引き受けるわ。」
彼女の意思は固かった。
誰が何と言おうと覆(くつがえ)らないだろうと、タフツァでさえ思った。