The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」

第 14 話
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ヱイユが木造の学舎に入った時、ソマは女児5人と昼食をとりながら歓談しているところだった。
まだ学校の制度ができていないので、家に帰って食事してくる子も多い。

彼女と話したい内容は子供たちに聞かせるには過酷だ。
先にタフツァを探そうと、隣の部屋へ行こうとした。

「ああっ、ヱイユくん、傷は!?」
「ソマ。
心配いらない。
食事が済んだら、タフツァと手短かに会議にしてくれないか。
できればヤエさんも・・・。」

ヱイユが少女たちとの食事を邪魔しないように気遣ってくれていることは分かった。
しかしそれ以上に、ヱイユには時間がないということもソマにはすぐ察せられた。

「ねえ、みんな。
わたしたちに“LIFE”を教えてくれた先生のこと、覚えてる?」
「シェブロン博士よ!」
「そう。
わたしも、あのおにいちゃんも、タフツァも、シェブロン先生に育てていただいたの。
その先生が今、南のメレナティレという国で、悪い王様に追い出されて、無人島にいらっしゃるの。」

断崖の孤島ルング=ダ=エフサは無人島でないと、ソマは知っていたが、少女たちに説明するために彼女はそう言った。

「無人島の生活は苦しくて、食べるものも着るものも、住むおうちもなくて、シェブロン先生はとても大変な毎日を過ごされているわ。」
「どうしよう、シェブロン先生!」
「早くみんなで助けに行かなくちゃ!」

ソマは笑みを湛えて、少女たちに語りかけた。

「わたしたちには皆、大切な人のため、“生命”をかけても戦わなければならない時がある。
みんなは今、その時のために勉強することが一番大事。
でもわたしは、もう少ししたら、先生の元へ、馬車を飛ばして、大急ぎで行くんだって、前から決めていたのよ。」
「ソマ先生、行っちゃうの?」
「いつ、帰ってくるの?」
「しばらく会えなくなっちゃうの?」

両手を少女たちの方へ差し伸べると、5人ともソマの手を引っ張った。

「すぐに戻るわ。
今より強くなって、先生に近付けるように戦って、・・・また新しい“LIFE”の話を聞かせてあげる。
学校のことはちゃんと、頼んで行くから、わたしがいない間、こんなに勉強が進んだってとこ、見せてよね。」

ソマは席を立ちながら、彼女の分のフルーツを、5人に分けて与えた。

「今メレナティレが大変で、全然時間が足りないんだって。
・・・だからちょっと行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
「先生、くだものありがとう。」

“生命”と“時間”についてソマが教えたばかりだったので、少女たちは「メレナティレには時間がない」と聞いて、あれこれ想像を巡らし、無邪気に笑い転げていた。

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