The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」

第 12 話
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レボーヌ=ソォラを“LIFE”による教育立国とすることを誓い合ったアミュ=ロヴァ市民たちは、街の至る所から建設の槌音が聞こえてきそうな、快活な日々を送っていた。

少年ウィロが犬を連れて駆けて行く。

「これ、新しい機関紙です。」
「ありがとう、ぼうや。
魔法の講義は決まったかい?」
「今度の土曜日です。
ほら、新聞の、ここに書いてあります。」
「それは楽しみだ。
家族全員で聞きに行かせてもらうよ。」

笑顔を交わし、手を振って別れる。
ウィロは新聞が発行されると、このように300軒ほど回っていくのである。

街路では魔法剣士ヤエが、少女たちと木の棒を振り回して剣の稽古をしていた。

「ウィロっ!
手伝おうか?」
「ううん、ヤエさん、みんなの大事な稽古中じゃないか。
ぼくは夜、タフツァさんに魔法を教えてもらうから!」
「いつも助かるわ。
終わったらいらっしゃいね。」
「新聞、とっても喜ばれているよ!
ヤエさんの記事も読んじゃった!!」
「あはっ、詳しくはまた演習の場でね。」

少女たちも鉢巻をして真剣に木剣を習っていた。

もうすぐ正午になろうとしている。
ウィロはゴウニーと名付けた犬を抱え、タフツァのいる木造の学舎へ昼食に戻ることにした。


住民を驚かさないよう、ここでも付近の森に降りて、人間の姿でアミュ=ロヴァに入ったヱイユは、遠くから少年ウィロの姿も見た。

同じアミュ=ロヴァの町並みに、少し前の記憶を重ね合わせる・・・。
“LIFE”に背(そむ)いて身を滅ぼした法皇ハフヌ6世の傲岸な靴音が思い起こされてきた。
その古い君主を諌めた、旧オフサーヤ宮殿も今や崩れ落ちているのだ。

悪魔イル=ディゴスとの対決。
無実の囚人でありながら、街の混乱を鎮めるため、牢を飛び出し、奔走したソマ。

あの少年が駆けていった方角に、彼女もいるのだろうか。

すれ違う人々はヱイユを知ってか知らずにか、にこにこと辞儀をする。
「こんにちは」という声もかけられる。
心が温かくなる。

今日のアミュ=ロヴァを築くためには、生死をさ迷うほどの壮絶な戦いが陰にはあったのだ。
彼は自身の戦いの果てに、民衆の生活が守られ、子供たちに笑顔が戻り、皆が“LIFE”という確かな人生の指標を持つに至った現実の様相(すがた)を発見した。

そして、老若男女の一人一人と挨拶を交わすたび、自然と優しい表情になっている自分をも見出していた。

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