第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」
ヱイユには無駄にできる時間などない。
竜王ゲルエンジ=ニルが消えゆく“生命”と引き換えに稼ぎ出してくれているからだ。
「ファラとフィヲをメレナティレのトーハさんの宿所に置いてきた。
カザロワ王は北の大陸オルブームへ侵略戦争をしかけようとしている。
俺の眷属がメレナティレ港からの渡航を食い止めているが、猶予はない。
・・・今夜、小型の竜に手紙を持たせてここへ遣わせる。
すぐに動けるよう、全部隊に準備をさせておいてほしいんだ。」
ナズテインはスヰフォスにかわって、LIFE騎士団の現状を手短かに話した。
「今でもリザブーグ周辺の森は機械兵が巡回しており、そこを通るためにはかなりの戦闘を覚悟しなければなりません。
魔法を使える者は少なく、銃器やミサイルなどの攻撃には、死傷者を出しかねない。
装備品が不足している状況です。
また、食糧の調達もままならなくなってきました・・・。」
以前、レボーヌ=ソォラへ向かった時はリザブーグ議会の要請であったため、後方からの支援が得られた。
今度はリザブーグを攻める側であり、その行動を支援することは他国でも難しいといわなければならない。
「よし、タフツァとソマにも会ってくる。
場合によっては、誰か連れてくるさ。」
窮状にあって、ヱイユは皆に笑顔を見せた。
猛々(たけだけ)しい闘神と思っていた人物が、力強く彼らを守り、励ましてくれるとは。
「盾のことは心配するな。
誰になるか分からないが、機械の攻撃を防ぎながら戦えることを前提に準備してくれ。」
収集がかけられたのであろう、ナズテイン以外の9人の部隊長が続々とスヰフォスの元に来る。
身動きのとれない焦慮(しょうりょ)はあったが、どの顔も決戦を控える勇者の輝きを湛えていた。
ヱイユは全員と固く握手を交わし、ただ一つのことを念願して言った。
それは、敵も味方も“LIFE”の力で救いきってほしいということだった。
具体的には、部下を死なせないこと。
自身も絶対に死なないこと。
機械が相手ならば少ない手数で確実に仕止めること。
生(せい)あるものが相手ならばLIFE騎士の先達でもあるファラの父ツィクターのように、相手をも守りきって戦うこと。
ナズテインも外に出てきて、10人の部隊長が揃ったところでヱイユは声を強めた。
「リザブーグにいる皆の家族は、再会を果たすまで俺が守る。
帰国したらリザブーグのため、よく働いてほしい。」
敵味方に分かれて戦うのではなく、同じ王国の一員として、正も邪も峻別し、最後には手を取り合っていくべき未来を意図しているのが分かった。
ヱイユはこう約束しつつ、内心、テンギやホッシュタスといった強敵を、少しでも早く自分が引き受けなければリザブーグが危ないという逼迫を感じていた。
だが表には出さない。
隊長の中には年配者もいたが、全員が心を打たれた。
深く頭を下げ、手を振ってヱイユを見送る。
次は古都アミュ=ロヴァへ赴かねばならない。