The story of "LIFE"

第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」

第 09 話
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メレナティレ港からオルブーム大陸は橋をかけられそうなほど海峡の距離が短い。
これまで竜王ゲルエンジ=ニルがいてくれたからこそカザロワ王の侵略を阻止できたが、今後はどうやってオルブームの先住民たちを守るのか。

上体を起こして対岸の新港を見ると、今日にもこちらへ渡って来ようかという船が連なっていた。

「竜王の髭」がヱイユに語りかけてきた。

『両岸の中間辺りに我が「髭」を突き立ててくれ。
力の及ぶ限り、時間を稼いでやろう。』
「それはありがたい・・・。」

人間の姿のまま飛び上がって、長い「髭」を抱え、すぐに海峡の上に至る。

「せっかくの形見だったんだがな・・・。」
『ふはは、闘神が聞いて笑うわ。
竜族が世界に及ぼす影響は、死後すぐには失われない。
お前が仲間をつなぎ、強敵を引き受けている間、おれはこの海域を封鎖しておいてやる。
再び海が静かになった時、ゆうべの海岸に来てくれ。』

海の底へ向け、「竜王の髭」が真っ直ぐ、沈んでいった。

すると海面が回り始めた。
まるでLIFEの術士が描く「正方向の魔法陣」のようだ。

「ゲルエンジ=ニルよ、ありがとう。
かけがえのない時間はお前の生命そのもの。
一刻も無駄にはしない。」
『頼んだぞ。
・・・侵略者どもめ、自慢の港も役に立たぬな、はっはっは。』

灰竜アーダの姿に変化したヱイユが、北東へ指して急ぎ飛んでいく。
ミルゼオ国コダーヴ市の、LIFE騎士団と連携するためである。


その頃、ファラとフィヲを自宅にかくまって技師の仕事に出掛けたトーハは、夜半にヱイユが爆撃して破損した機械兵の修理のために駆り出されていた。
悉(ことごと)く使い物にならなくなった殺戮用ロボットの山を見て、彼は胸の空(す)く思いがした。

『小僧、なかなかやってくれる。
魔法使いや騎士たちに危険な役目を負わせるまでもなく、こうして皆こわしてくれたらいいんだが・・・。』

技師の中でも頼られる存在のトーハに、王国機械兵部門の役人が尋ねてきた。

「どうだ、修理はできそうか・・・?」

かなり狼狽した様子である。
完成した機械兵の一団は、近く何かのミッションで使われる予定だったからだ。

トーハは「ふうむ」と言ったきり、考え込む様子を示した。
各地に散っていた仲間たちが、総勢でこのメレナティレへ、リザブーグへ、集ってきている。

彼も今こそ、皆が一番戦いやすいよう、王国を手玉に取って操ってやるべき時だと思った。

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