第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」
竜王ゲルエンジ=ニルが滅ぼされた日の深夜、メレナティレ港の北東部で爆撃があった。
狙われたのは使用準備が整った機械兵器の基地で、夜通し稼動する工場とは異なり、厳重に施錠されていたが中に人はいなかった。
直(ただ)ちに警戒態勢が敷かれる。
しかし攻撃を受けたと思われる地点にばかり首都を上げて人員を送り込んだため、西側が手薄となった。
灰竜アーダの姿でファラとフィヲを乗せ、基地を爆破したヱイユは、南西部へ回り込み、人目につかぬよう、二人を町外れの森に下ろした。
連携を取り合うことになっているので、ヱイユはすぐさま闇夜へ飛び立っていった。
武装せず、若い夫婦ということにして、二人は徒歩でメレナティレに入ったのである。
ヱイユの手による地図は、目の前に広がる城下町を正確に表していた。
幾つかの路地を曲がり、怪しまれぬよう、手をつないで歩く。
途中、憲兵2人が近寄ってきて訊いた。
「こんな時間にどこへ行く?」
ファラとフィヲは顔を見合わせた。
「爆発があったんだって!?
事故でも起きたのか。
むこうに友人夫婦がいるもので、心配しているんだ。」
「今現場を調べているところだ。
市民の立ち入りはできない。
明日の発表を待て。」
フィヲもなかなか演技ができる。
その場で膝を着いて両手で顔を覆い、架空の友人の名を呼んだ。
「不安なのはぼくたちだけじゃない。
町の人、誰もが現場へ行きたい気持ちだよ。
・・・ほら、迷惑になるから、もう帰ろう。」
ファラの腕に取り縋(すが)るように、フィヲは憲兵には顔を見せず、来た方へ引き返した。
「まいったな、あそこが通れないんじゃ、回り道するしかない・・・。」
「もしまた怪しまれたら、祖父の家までって言おう。」
二人は頷き合って、微笑んだ。
敵の目を欺(あざむ)くためとはいえ、腕を組んで夫婦を演じているのである。
フィヲもファラもうれしい気持ちを隠せなかったし、傍(はた)から見る者は疑う余地もないほど睦まじい夫婦と映った。
「最悪、路地裏へ引っ張り込んで、身動きを封じてしまってもいいからね。」
ファラがこう言うと、二人して辺りはばかりもなく声を出し笑った。