第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 02 節「悪王と邪師」
ドウン、ドーン・・・。
砲台から次々に弾が撃ち込まれる。
ゲルエンジ=ニルの体から血が流れ落ちた。
「グオオオオオン!!」
幾度となく、国策であるオルブーム侵攻を妨げた竜神は、彼らの目には憎き怪物としか映っていない。
生あるものが傷つき、痛み、悲鳴の絶叫を上げても、憐れむ者はなかった。
「休むな!
撃ち続けろ!
奴が無様に死に果てるまでだ!!
ギャーッハッハ・・・。」
渦巻く海流に、大気の渦も巻き起こる。
周囲の空間から、毒霧のような緑色の気体が集まってきた。
「よく見ておけ、兵士ども!
憎き邪魔者が苦しみもがきながら死ぬ様をな・・・!!」
ヨムニフが杖を振り回すと、海面から天空まで渦巻く毒霧に火炎が燃え広がり、空も海も、港に立つ彼らへ照りつける光も、にわかに赤一色となった。
竜神の叫びは断末魔の音声(おんじょう)となり、いつまでもその一帯にとどまるように鳴り続けていたが、徐々に弱まって消え入ってしまった。
炎だけならば死に至ることはなかっただろう。
毒に引火させたことがゲルエンジ=ニルの生命を奪ったのだ。
しばらく火炎は立ち上っていた。
「よしよし、船の準備にかかるんだ。」
兵士たちは鼻と口を押さえながら新メレナティレ港の町へ一時退避した。
だがバタバタと斃(たお)れる者が後を絶たない。
「死んだ奴らに構うな。
海へ投げ込め。
ここで死んだことなど誰にも分かりはしないさ。
・・・ハッハッハ。」
この頃から、メレナティレ兵の中に、ヨムニフを憎む者が出てきていた。
親友が苦しみながら息を引き取るのを手厚く看取り、泣きながら肩に担いで城下へ戻ろうとする兵士もいた。
それを見たヨムニフは、気違いじみた激昂を発し、怒鳴り散らした。
「捨てろと言ったのが分からねえか!
何ならお前を葬ってやってもいいんだぞ!!」
兵士は背中を銃器で撃ち抜かれ、更にカザロワの近衛兵の剣によって、左の胸を貫かれ、痙攣しながら事切れてしまった。