第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
今、世界で起こっていることを最もよく掌握しているのが闘神ヱイユといえる。
彼は小竜リールを使いに立てて、断崖の孤島「ルング=ダ=エフサ」とも交信しているし、自ら見回ってLIFE騎士団の動きもタフツァたちの動きも知っていた。
メレナティレが北の大陸「オルブーム」へ派兵を始めた時も、いち早く気付いた。
負傷して療養していた場所が、オルブームの中央に聳え立つ「ヤコハ=ディ=サホ」の、更に北に位置する「長老の木」だったからである。
傷が癒えてきてからも、なかなか動き出すことはできなかった。
生命に及ぶほどの痛手だったのだ。
カザロワの命令で「新メレナティレ港」ができると、オルブームの先住民族を守るため、ヱイユはついに動いた。
その頃、イデーリア大陸の戦乱が収束に近付いていることも知った。
ヱイユは自らオルブームに止(とど)まっていることはできなくなった。
代わりに龍王「ゲルエンジ=ニル」をそこへ配したのである。
怪鳥「ガルーダ」は元の住処である「ヤコハ=ディ=サホ」に置いた。
大陸と呼ばれても、大きな島に近いオルブームに古くから伝わる守護神がガルーダだからだ。
この夜フスカ港へ来たのは、明日からファラとフィヲが取るべき進路を示すのが目的だった。
「タフツァとソマは今、レボーヌ=ソォラに“LIFE”思想を息衝かせるためにはたらいている。
悪魔結社マーラは潰(つい)え、古都アミュ=ロヴァを中心とした『魔法教育都市』の建設が始まっているんだ。
それにはまだどうしても二人の力が要る。」
ようやく気持ちが落ち着いてきたファラは、照れくさそうに俯き加減で頷いた。
「元々リザブーグ出身のLIFE騎士団は、本国に入って仲間を集めるだろう。
表向きは王国騎士に戻っても、内心で彼らの帰りを待っていた者がいるはずだ。
それに今回のレボーヌ=ソォラへの派遣は旧リザブーグ議会の要請だった。
正面衝突にならぬよう、スヰフォスさんが手を打っている。」
敵地へフィヲと二人だけで乗り込んだ心境だったファラも、多くの仲間が各地で立派に役目を果たしながら、それを決着して師の元へ集って来ようとしているのを知って、頼もしく思った。
あとは彼自身の役目を果たすのだ。
「LIFE騎士団はシェブロン先生にお戻りいただけるよう、準備を進めるだろう。
・・・すると、ここからが本題だな。」
ファラも無言で頷く。
ホッシュタスとテンギのことを、ヱイユに話しておかなければならない。