第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
食堂では酒盛りが始まっていた。
ファラやフィヲにとっても微笑ましい光景だ。
イデーリアの民が、マーゼリアのために夜を徹して二人を運んでくれたのである。
そのおかげでいち早くメレナティレやリザブーグの情勢を掴むことができた。
奥さん方は片付けがあるので酒は口にできない。
部屋に帰れば男たちは眠ってしまうだろう。
フィヲは片付けますからと心を配ったが、皆、今夜はいいと言う。
きっと夫の酒の相手もしたいにちがいない。
「主人は大変な仕事をしてきたんだもの、晩酌くらいはさせてやりたいさ。
みんなで祝杯を上げるのはロマアヤへ帰ってからね。」
ファラはラムフォングにも一緒に飲んできてはと勧めた。
酔った水夫が立って来て、この真面目な兵士を誘った。
少年将軍が頷いているので、彼も仲間に入ることができた。
これから大変な戦いになる。
本当に、生命に及ぶ死闘が目に浮かんだ。
テンギもホッシュタスも健在なばかりでなく、シェブロン博士が“LIFE”を説き始めた頃からの留難地であるリザブーグが舞台となる。
ファラはフィヲの視線に気が付いた。
二人は最も困難な戦いに臨む覚悟も、ここへ船を出してくれた人々が楽しんでいる様子を喜ぶ気持ちも、一緒だった。
さて、どう動いたものか。
明日の朝、一番にフィヲと作戦を練りたい。
LIFE一行はいつでも賑やかに会議を持った。
そこには一人一人の素晴らしい発言がある。
現実は悪戦苦闘であったとしても、なんと楽しい、誇らしい日々だっただろうかと振り返る。
ファラは片付けに回ってくれているフィヲに、丁寧にお辞儀をした。
全て分かり合えるかけがえのない仲間へ、心からの尊敬を込めて。
皆が騒いでいて嫌だったのではない。
ファラにはどうしても一人になって考えなければならないことがある。
フィヲは分かってくれているだろう。
彼には、否、二人には、師シェブロン、ノイやトーハ、続々と集ってくるであろうLIFE騎士団、そしてザンダの率いるイデーリアの民、更には、貪り・怒り・愚かという強盛な「三毒」に冒されたマーゼリアの民をも救いきっていくべき責任がある。
ファラは一人、そっと表へ出、夜間で静かに水を湛える噴水の所へ腰を下ろした。