第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
「では、『オルブーム』では戦争が起きているんですか!?」
「それがな、不思議なことに、古くからルモア半島に棲息していた空と海の支配者、『ゲルエンジ=ニル』と呼ばれる真っ赤な竜神が、新メレナティレ港の海域に出現し、船での侵略を阻んでいるらしいのだ。」
神格化されるような巨大生物が、非道な侵略戦争に怒り、牙を剥いている。
そういえば、“LIFE”に関する書物で読んだことがあった。
いずれかの地方、ないし何らかの現象を司る神々は、その力の根源が実は“LIFE”であることを知っており、手にした強大な力を失いたくないがゆえに“LIFE”とその実践者を守護するという。
『シェブロン先生をお守りしようとするのは、ぼくら教え子だけじゃないんだ。
土地の神々も皆、味方にできるに違いない。』
厩舎の前で立ち話をしていたが、北の山道に馬車を出してほしいと客が来た。
ファラは「また来ます」と言って御者ノスタムと別れ、商店を回っていくことにした。
フスカの武器屋は海兵のためのサーベル類ばかり置いていて、ファラの無刃刀を見ると、「うちはそういう物を扱っていない」と首を振る。
商人たちと異なり、フスカに住んで武器屋で生計を立てている店である。
続いて防具屋にも立ち寄った。
LIFE騎士団に譲ってもらった鎧を着て、イデーリアの激戦を乗り切ったが、もうボロボロだ。
着替えては洗って使った下衣も新調したいところである。
鎧の修繕に300チエル、下衣2着の新調に各100チエル、使い古した下衣は各30チエルで下取ってもらった。
差し引き440チエルの出費になる。
『無刃刀もそろそろ限界なんだけどな・・・。
リザブーグの鍛冶屋さんが展示していた大きな剣、本当にぼくのために取っておいてくれたかな。
その前に入国の道を探さなくちゃ。』
夕方、宿に戻ると、1階の厨房が賑やかになっていて、フィヲや、ロマアヤの奥さんたちが楽しそうに食事の準備をしていた。
宿の従業員たちも一緒だ。
「おかえりなさい!
18時になったら、みんなを呼んで下りてきて!」
いつになくフィヲの声が元気で、ファラは安心した。
2階へ上がると、男たちは相当疲れていただろうに、横になったりせず、仕事の後の達成感で威勢よくしゃべっていた。
ファラの姿を見ると、船乗りが手を取って仲間に入れた。
また、兵士たちはファラのことをロマアヤの若き将軍として尊敬しているのだ。