第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
宿での部屋割りが決まった。
女たちは往復して軽い荷物を運び、男たちは船を停泊させておくポートを確保する。
フィヲは旅装を解いて、買い物をしながらメレナティレの動向を探った。
魔法の本を手に取って、西からの行商人に尋ねる。
イデーリア大陸の事実上の統一を、マーゼリアの人々がどう考えているか分からない。
ロマアヤから来たということは伏せておいた。
「最近、物騒ね。
西でも東でも戦争ばかり・・・。
商人さんは、リザブーグから?」
「ああ。
メレナティレと旧王都を通ってきた。
本当は軍港ミナリィに寄ろうとしたんだが、リザブーグ以南の道は封鎖されてるよ。」
国家の秘密に対しては衆人の関心と商人たちの関心は一致していた。
「実は家族が領内にいるの。
入国できないかしら・・・。」
「メレナティレも『交易ルート』から脱退したら自分の首を締めるに等しいことぐらいは分かっているはず。
パスを持っている商人と、旧リザブーグ国籍、メレナティレ国籍を持っている旅人なら入れるだろう。
あんた、どこの人だい?」
「それがミルゼオ国籍に変わってしまって。」
「う~ん、メレナティレとミルゼオが、どうも上手くいってないんだよな。
緊張が解けるまで、近寄らない方がいい。」
手に取った本はメレナティレで著されたもので、「機械技術と魔法の関係」を書いていた。
「ねえ、これ、いくらかしら?」
「200チエル。
物品と交換でも構わないよ。」
「それならお金で。
・・・はい。」
1000チエル紙幣を渡し、フィヲは本と釣銭を受け取った。
一方ファラは、シェブロン博士と顔見知りの御者を訪ねていた。
ノイ、トーハとともに、フスカから馬車でリザブーグまで送り届けてもらった、LIFEに協力的な人物である。
「以前はお世話になりました、ファラです。」
「おお、おおお、無事だったか・・・。」
彼は名前をノスタムといった。
「博士が捕らわれ、ルング=ダ=エフサへ流されてからというもの、メレナティレで不吉なことばかりが起こってな。
莫大な金を注(つ)ぎ込んで建てたばかりのカザロワ新居城に亀裂が入ったり、河川が氾濫したりと、農地は荒れ、工場は稼動しなくなった。
・・・最近の動向を聞いたかね?」
「いいえ。」
「カザロワは北の大陸『オルブーム』へ侵略を開始した。
大陸と言っても大きな島のようなものだ。
中央に聳(そび)える『ヤコハ=ディ=サホ』。
その周りを4つの部族が分け合い、長い間、争うこともなく暮らしてきたのだ。」