第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
「お前と冒険ができて楽しかった。
もう、おれには必要ないからな、・・・これをやろう。」
召喚士ムヂは晴れ晴れとした表情で、「メゼアラムの本」をファラに手渡してくれた。
簡単に手に入るものではない。
ファラは涙を流した。
「いつかきっと、ご恩返しができるよう、修行して戻ってきます。」
ムヂは、その気持ちはうれしかったが、もう自身がそれほど長くないことを知っていた。
頑丈な肉体の内側は、様々な病に冒されていたのである。
「いやいや、こんなに老いぼれた、死に損ないの相手をしてくれてありがとうよ!
心から楽しかった。
近い将来、お前の『メゼアラム』が発動したら、そこにはおれの“生命”も入っている。
・・・あとは、いい人生を生きろ。
それで十分だ。」
少年は戻ってくるつもりでいたが、市場に入り、数日間、滞在していると、召喚士ムヂが亡くなったという知らせが伝えられてきた。
彼は「メゼアラムの本」抱きしめ、数奇な出会いと、短い冒険の日々を絶対に無駄にはしないと心に誓った。
再び、澄んだ青空のような水色の世界が広がっていた。
大きくなったファラは、ヒムソン法師やスヰフォス学師、そして召喚士ムヂを追いかけて走っていた。
ああ、初めて「メゼアラム」が成功した次の日の朝、目の前に広がるフスカ港の光景、遥かな大海原の群青。
彼はうれしくて、うれしくて、坂道を駆け下りていくと、広場にシェブロン博士の一行を見つけた。
その中へ、自分も一員として、やっと再会できた喜びに溢れて、遠慮がちに飛び込んでいった。
迎えてくれたザンダの笑顔、フィヲのまなざし。
嬰児の時、いつもあやして可愛がってくれたという、懐かしいソマ。
尊敬する兄のようなタフツァ。
ファラとフィヲを見守り、時には体を張ってかばってくれる老婆ヴェサ。
父を思い出させてくれる騎士ノイ。
親しく肩を叩いて話してくれる技師トーハ。
心の奥底にいる、最強の自己を象徴する獅子、その姿を体(たい)した頼もしいライオンのドガァ。
まだ師匠に甘えたい気持ちが出てしまう。
どんな時でも胸中を共にする、変わることのない人生の師シェブロンとの邂逅で、ファラはようやく、眠りから目を覚ました。