第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
「おれが万全を期して、またどこかの主(ぬし)に挑戦したいと言えば、師匠は横に首を振る。
たとえ追い詰めても、『メゼアラム』は使えないってな。
それから猛勉強した。」
召喚士ムヂは昔を回想しながら、今、目の前で茶を飲んで熱心に話を聞いてくれている、この少年と出会うために、自分のこれまでの人生があったのではないかと考えていた。
彼が間を置いて、じっとファラの顔を見ていると、今度は少年の方から質問が出た。
「自分より強い相手を捕まえることもできますか?」
ムヂは頷いて答える。
「『メゼアラム』の極意は、相手を倒すことじゃない。
“共に生きる”ってことなのさ。
だから魔法陣が立ち上がる前にこちらがやられちまったり、逃げられれば失敗だが、基本は隙さえ突ければ勝ったも同然。」
「すごい・・・!!」
素直に驚くファラを見て、ムヂは笑った。
誰も褒めてくれない、気付いてもくれなかった努力の半生を、こうして認めてもらえたのがうれしかった。
「やってみるか?
おれがレスリングで鍛えていたように、お前は親譲りの剣法で強くならなくちゃいけないが。
相手は凶暴な魔獣だからな。」
「ぜひ、ご教示ください。
近くへ稼ぎにも出ますから!」
だが旅の目的を知らないわけではない。
ムヂは、少年にあまり多くの時間がないことを気遣ってくれた。
そこで村々を回り、住人たちの依頼を受けて幾つかの仕事を引き受けることにした。
元よりムヂは金品がほしいのではない。
報酬は半分ずつにしようと言う。
ファラはムヂについて、野生動物との戦闘を習った。
野犬や蝙蝠(コウモリ)、大きな蛇、凶暴な鳥。
ミルゼオ国といえども、森の奥へ分け入ると、まだまだ危険な動物たちが棲んでいる。
家畜を狙う害獣との戦い。
商人を襲う野犬の群れからの護衛。
決められたルールで試合をするのとはわけが違う。
相手が一匹ならば応戦できても、複数で飛び掛ってこられると、さすがにファラはやられっぱなしだった。
傷を追うことなどしょっちゅうだ。
ムヂはグローブをはめて、凶暴な野生動物を次々に倒しては、宙に魔法陣を描き、捕らえて見せてくれた。
そしてファラの怪我を診て、治療する術(すべ)まで授けてくれたのである。