第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
賑やかな昼間の時間が過ぎると、ここでの学友たちは皆、家に帰っていく。
ファラには帰るべき所がない。
寒い冬の夜、火にあたりながら遅くまで本を読み返しているファラに、スヰフォスは語りかけた。
「お前がいるだけで、周りの子供たちの成長も目覚しい。
ずっとビオムにいていいんだよ。」
うれしい気持ちから、振り返らないまま微笑んで、ファラは考えていた。
そして、スヰフォスの方を向くと言った。
「ぼくの母さんは故人で、リザブーグに眠っているといいます。
はぐれた父さんとは、きっと、リザブーグで会えると信じているんです。
先生の元に居られて、たくさんの人と出会えたことも、とても幸運でした。
・・・それで、春になったら旅立つつもりでいます。」
白い髭(ひげ)を蓄えたスヰフォスが、にっこりと笑みを見せる。
しかし内心、さびしい気持ちが起こって、それは別れの時まで、日に日に大きくなっていった。
やがて花々が色づき、美しく薫る季節は訪れる。
大人になりつつある少年は、恩師を悲しませぬよう、再会を約し、必ず父を見つけると言って、村を後にしたのだった。
山道は南北に長く続く。
ちょうど、コダーヴ市の辺りでのことだ。
「召喚士ムヂ」という魔法使いに出会った。
昔は旅をしていたらしいが、晩年、付近の一軒家に隠居していた。
ファラは道中で手に入る物品や貨幣と交換して、民家で食事や休息を取らせてもらうのが常だったが、たまたま訪れた家がムヂの住処だったのである。
「おう、魔法使いの子か。
・・・金品はいい、話し相手になってくれ。」
その日、延々5時間も老人は話し続けた。
ファラにとって、決して関心のない内容ではなかった。
・・・たとえば砂漠で水を操るのは容易ではない。
河川があれば水を使うのもいいし、火や風はどこにでも起きる。
大地の力は肥沃な土地と枯渇した土地では異なる。
また、星の内部エネルギーであるマグマの動きや地層を利用した変動を起こすにはかなりの熟練が要る。
ムヂは若い頃、レスリングを極めた。
猛獣との戦い。
時には生命を奪うこともあったという。
それが人生半ばにさしかかる頃、ある導師との出会いで殺生を咎められ、体力の減退も感じていたことから魔法を教わることになった。
師弟して、森の支配者と対峙した時のことだ。
導師は彼に言った。
「魔獣、害獣と言っても、それを操る者が正しい人間ならば、彼らを正しい目的のために生かしてやることができるのだよ。」
師は強かったが、レスリングで体を鍛えてきた証明として、お前が倒してみろと指差す。
ムヂは死力を尽くして戦った。
だが、力及ばずと見ると、師は立ち塞がって魔獣を懲らしめ、屈服させた。
その時である。
目の前の空間に魔法陣が浮かび上がって、すーっと消えるとともに、魔獣もいなくなってしまった。