第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
澄んだ青空を思わせる水色の世界。
懐かしい人々の記憶。
少年ファラはまだ無邪気な子供の姿で、泣き虫で、両親と別れて最初に彼を守り育ててくれた「ヒムソン法師」の背中を追いかけているところだった。
新緑の木々の間を、心地よい風に吹かれながら、幼少時の師に近付きたくて、元気よく駆け抜けた。
いつしかヒムソンの姿は消え、辺りは宵闇に包まれていたが、彼はもう泣かなかった。
自分で旅に出ることを決めたのだ。
使える唯一の魔法は“フィナモ”。
父ツィクターがいびつな魔法陣を描いて教えてくれた。
初めて火が点(とも)った瞬間の、父の嬉しそうな感激の声。
確かに、涙を拭うのも忘れて褒めてくれていた。
炎の力で守られ眠った幾多の夜。
孤独な旅の、心細い日々。
途中まで、ヒムソンが見張りを付けていてくれた。
少年はそのことに気づかないまま、何度も助けられた。
道端にあるはずもないパンを見つけては、大きな誰かの手で守られていることを信じていた。
そして感謝の祈りを捧げた。
暗い夜道はやがて夕暮れの集落の風景となる。
そこはビオムという名の村で、まだ太陽の隠れないうちは、子供たちが笑い声を上げて走り回っていた。
どの場面、どの日の情景にも、学校の鐘の音が聞こえてきそう。
子供たちを守るように、優しく包み込んでいる。
レボーヌ=ソォラでの最後の消息。
父ツィクターらしき人物が、我が子を探して南下していったという噂。
ファラにはこれだけが希望だったのである。
道中、出会うのは森の動物か、旅の商人ばかりで、彼は人の温もりを欲していた。
それにもう、これ以上、危険な旅は続けられそうにない・・・。
ボロボロの身なりを見て、親切な村人が教えてくれた。
「子供たちを集めて剣を教えている先生がいる。」
少年ファラ、14歳の秋。
スヰフォス学師の教え子となる。