第 10 章「無量義(むりょうぎ)」
第 01 節「魔都集結」
ロマアヤ公国ブイッド港を発ったメレナティレの大型船は、ワイエン列島南の岩礁を迂回、西へ西へ、王国港ミナリィを指していた。
術士ホッシュタスにより、力と意識とを封じ込められたテンギは仮死状態の眠りについている。
全身鎧の兵たちの大半はテンギの凶刃に斃(たお)れ、船室に隠れていた船乗りたちが命からがら帰還の任にあたっていた。
一方、ロマアヤの小型船でホッシュタスらのマーゼリア大陸進出を阻もうとするファラ、フィヲと少数の公国水夫たちは、メレナティレ船の後方を追跡することはせず、ワイエン列島の北を回って中立自由市国ミルゼオのフスカ港を目指している。
大砲搭載の大型船を追うことはごく危険であり、無事に到着できても、敵地の港へ入るなどほとんど不可能だ。
小型船の利を活かし、フスカ港から馬車で旧リザブーグ王宮へ先回りするつもりでいた。
日が没した後の海域は真っ暗になった。
ふくらみゆく上弦の月が照らしてくれている。
唯一、南方の陸地にはウズダク国の首都スタフィネル港の灯台の明かりが見えていた。
この辺りはワイエン列島と自由市国ミルゼオの貿易に使われる海路で、大セト覇国やウズダク海軍、メビカ船団の覇権争いを制した今は穏やかに凪(な)いでいる。
ファラが敵に先んじたい気持ちはロマアヤの水夫たちにも伝わっていた。
夜間も停泊することなくライトを点じて船を進めてくれることになった。
ファラはフィヲを気遣い、夜風に当たらぬよう、船室に入って作戦など話し合うようにした。
二人とも毛布にくるまっている。
「フィヲ、疲れていないかい?」
「ええ。
休める時には、よく休みましょう。」
波の音は静かだが、動力の音は絶えず鳴っていた。
「敵の数はセトよりも多いだろう。
タフツァさんやソマさんと、早く合流したいね。」
「フスカで会えないかしら。
みんなもきっと移動しているから、手紙は届かないし・・・。」
LIFE騎士団が北上して行った時、ミルゼオ領コダーヴ市を通った。
そこがリザブーグへ行く道とフスカへ行く道に分かれる地点だ。
「着いたらまず情報収集だね。
フスカの船乗りがメレナティレ船の動向を知っているかもしれない。」
フィヲが黙っているので、眠ってしまったかと顔を覗き込んでみたが、目は閉じていなかった。
クスクスと、可笑しいのをこらえているようだ。
「ファラくん、初めて二人だけになったね。
ザンダも、ルアーズさんたちもいないけど、・・・タフツァさんたちと合流できるまでの間も、わたしがついているから心配しないで。」
そう言って、声を出して笑うのである。
顔を赤らめたファラに、フィヲは年は同じだが、母親のように、姉のように、少年がよく眠れるよう、優しく胸を叩いてくれた。