第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
炎がテンギの髪に燃え移ってしまった。
ホッシュタスの全魔法力を消耗させたフィヲは、ファラの所に戻ってきて、ロッドからの奔流でテンギを水攻めにした。
甲板は水に浸(つ)かり、フィヲはもう戦えないファラを抱えて桟橋の方へ引き返していく。
その時、汽笛が鳴った。
誰かが船を出港させようとしている。
「フィヲ、ぼくはこのままメレナティレまで行く。
きみは後から来てほしい。」
力を使い果たしたファラを、敵の船に乗せたまま行かせることなどできるはずはない。
彼女は、それなら一緒に行くなどとは言わなかった。
否応なしに、ファラを船の外へ連れ出し、そして言った。
「しっかりして!
あなたがいなければ、誰が“LIFE”を実現させるの!?
テンギを倒せばそれで終わりじゃないのよ。」
だが一瞬の反発心が、ファラを船へ飛び込ませようとした。
フィヲがしがみついて、どうにか桟橋に留(とど)まった。
今までこんなに悔しそうなファラの表情はなかった。
足下へ拳を打ち付けている。
ファラの焦りは誰にも分からなかったに違いない。
あのリザブーグでの、シェブロンとの悲しい別れ。
師が捕らわれゆく悔しさを、じっとこらえて見送らねばならなかった。
力をつけることだけが、“LIFE”に近付くことだけが、師を守ることだと信じて戦ってきた。
孤軍奮闘する、滅び去ろうとしているロマアヤに少ない仲間と上陸し、自ら一切の責任を担って活路を切り開いた。
奪われた土地を奪還し、行く所行く所、“LIFE”に生きる喜びが敵味方に広がっていった。
多くの兵士はファラに習って刃を外し、殺生を止(とど)め、敵をも生かす戦法へ、目を開いていった。
侵略と抵抗という、元同じ民族でありながら血で血を洗う戦乱に明け暮れていたイデーリア大陸に、“LIFE”の太陽が昇ったのである。
次はいよいよリザブーグ、そしてメレナティレへ。
最も背いた魔性の彼(か)の地に“LIFE”を広め、必ず師シェブロンを救出するのだ。
少年は、戦いの中で16全ての魔法をようやく修得し、“LIFE”の器として完成を見るはずだった。
しかしシャムヒィ最後の戦いにおける“フィナモ”の喪失・・・。
更には最も危険な難敵、テンギとホッシュタスを、寸(すん)での所で取り逃がすとは・・・。