第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
「フィヲッ、先に港へ・・・!!」
「ダメよ!
一緒に戦います。」
乱調な足音で木の階段を踏み鳴らしながらホッシュタスも上がってきた。
「小僧、生きて帰れると思うなよ・・・!!」
ファラの判断よりも早く、フィヲがホッシュタスを引き受けた。
テンギも木材を撒き散らしながら起き上がる。
10本5対の手と手を叩き合わせながら、戻りつつある感覚を確かめた。
今は防具も外されている。
ファラは躊躇がない。
相手の体勢が整うのを待たず、左肩目掛けて飛び掛ると、両手持ちの無刃刀を力いっぱい振り下ろした。
「ぐおおおおお・・・!!」
左側5本の腕が上がらなくなった。
それでも情けをかけてやる必要はない。
続けざまに左の胴を横薙ぎに斬って、胸の中央を剣先で突き倒した。
すると、バシャっと音を立てて、テンギの全身に水が浴びせられ、その体表は瞬く間に凍りついた。
鼻と口まで覆われて呼吸ができない。
後ろのめりの状態で、皮膚には氷が張っている。
そこへ今度は右肩を狙った「袈裟(けさ)斬り」が炸裂、氷は割れて、テンギほどの戦闘狂が怖気づくほど、深刻なダメージを与えた。
この時、ファラは“フィナモ”を唱えようとした。
近くにフィヲがいれば、彼女が撃ってくれたかもしれない。
だがフィヲはホッシュタスが発動するあらゆる攻撃魔法を封じ込めるのにいっぱいだった。
“フィナモ”は起こらないはずだった。
しかし、炎が舞い上がった。
それはテンギの体から出た炎。
術者の“生命”を反映するという魔法現象で、見間違うはずもない。
ファラの“フィナモ”はテンギの体内に組み込まれているらしいのだ。
少年は心痛を受けなかった。
テンギから起きた彼自身の“フィナモ”を、我が物とした。
全身にロニネを張って、炎を纏い、そのまま正面からテンギの懐(ふところ)へ飛び込んだのだ。
右手から一振り、半回転して斬り上げ、バチバチとテンギの体を焦がしながら、自分でも驚いたほどの怪力で、3メートルもの高所に位置する頭部を燃え盛る両手で掴むと、それを再び、甲板目掛けて叩き付けた。