The story of "LIFE"

第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」

第 16 話
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突然、舳(へさき)の方で破壊音が響いた。

戦意を失くして倒れ込んでいたメレナティレ兵の絶叫、そして物の落ちる音、転がる音が入り交じり、床板を踏み鳴らす金属の靴音は異常なリズムを刻んでいる・・・。
テンギが目を覚ましたことは明らかだった。

「いけない、フィヲ!!」

ファラの連続攻撃があまりに間髪なかったので、フィヲはまだ上にいる。
少しなら持ち堪えられるとしても、あの凶悪な敵は一刻も早く自分が引き受けなければならない。

彼はせっかく追い詰めたホッシュタスを捕縛し得ないまま、魔法陣を放置して駆け戻った。

一方フィヲは、内心の恐怖に打ち勝つため、今、船の前方に姿を見せ、何人もの兵士を惨殺した異形の怪物――しかしながら人間である憐れな“生命”を直視した。

怖いから目を反らすのか。
否、そこにある悲惨、そこにある害悪と対峙しなければならない。

ズドズドズド・・・。
とても人の歩く音ではなかった。

フィヲはテンギの標的にされていた。

『ファラくんは自ら買って出てくれているだけで、テンギに対して持つべき責任はわたしも同じ。
力の限り、戦おう・・・!!』

武器は取り上げられていたが、10本の腕が、一様にフィヲの生命を狙って動いている。

『テンギといっても、必ず“LIFE”の力で救いきっていかなければ。』

フィヲは指先で水を弾くように、パリン、パリンと、氷結の現象をテンギの手に向けて撃った。

どの手の指も動かせなくなって、テンギは顔をしかめた。

「うおおおおおおおおお!!」

人間らしい声が出ないらしい。
テンギはフィヲに向かって突進してきた。

ちょうどこの場面に間に合ったファラは、急ぎ駆け上がってきた勢いのまま、衝撃波を起こしてテンギを横倒しに突き飛ばしてしまった。

ズシーン、ズシーンとバウンド音がして、左舷の床板が巨体の重みで破損した。

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