第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
突然、舳(へさき)の方で破壊音が響いた。
戦意を失くして倒れ込んでいたメレナティレ兵の絶叫、そして物の落ちる音、転がる音が入り交じり、床板を踏み鳴らす金属の靴音は異常なリズムを刻んでいる・・・。
テンギが目を覚ましたことは明らかだった。
「いけない、フィヲ!!」
ファラの連続攻撃があまりに間髪なかったので、フィヲはまだ上にいる。
少しなら持ち堪えられるとしても、あの凶悪な敵は一刻も早く自分が引き受けなければならない。
彼はせっかく追い詰めたホッシュタスを捕縛し得ないまま、魔法陣を放置して駆け戻った。
一方フィヲは、内心の恐怖に打ち勝つため、今、船の前方に姿を見せ、何人もの兵士を惨殺した異形の怪物――しかしながら人間である憐れな“生命”を直視した。
怖いから目を反らすのか。
否、そこにある悲惨、そこにある害悪と対峙しなければならない。
ズドズドズド・・・。
とても人の歩く音ではなかった。
フィヲはテンギの標的にされていた。
『ファラくんは自ら買って出てくれているだけで、テンギに対して持つべき責任はわたしも同じ。
力の限り、戦おう・・・!!』
武器は取り上げられていたが、10本の腕が、一様にフィヲの生命を狙って動いている。
『テンギといっても、必ず“LIFE”の力で救いきっていかなければ。』
フィヲは指先で水を弾くように、パリン、パリンと、氷結の現象をテンギの手に向けて撃った。
どの手の指も動かせなくなって、テンギは顔をしかめた。
「うおおおおおおおおお!!」
人間らしい声が出ないらしい。
テンギはフィヲに向かって突進してきた。
ちょうどこの場面に間に合ったファラは、急ぎ駆け上がってきた勢いのまま、衝撃波を起こしてテンギを横倒しに突き飛ばしてしまった。
ズシーン、ズシーンとバウンド音がして、左舷の床板が巨体の重みで破損した。