第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
「どうなっても知らないからなっ!」
ザンダはファラの役に立ちたい一心だったので、桟橋へ戻されて、悲しいわけでも悔しいわけでもなかったが、涙を滲ませながら叫んだ。
行く手を阻んだメレナティレ兵を数人、海へ突き落とす。
そして横をフィヲが通っていくのを、ファラなら止(と)めろと言うだろうけれども、あえて通した。
今のファラの状態では、彼女の助けがなければすぐに力尽きてしまうだろう。
「おねえちゃん、頼んだよ。」
港は緊迫して、ロマアヤ兵たちが戦闘の準備を整えていた。
古参兵を見かけたザンダが駆け寄る。
「待ってくれ。
ホッシュタスはおれたちの手に負えない。
あの二人に任せて、追撃用の船を出せるように準備するんだ。
あと、奴らに気づかれないように、小舟でメビカとウズダクに知らせに行ってほしい。」
海中のメレナティレ兵らが溺れかかっているのを見て、ザンダは一瞬、見殺しにしたい衝動に駆られたが、頭を振って味方に救助を指示、武器や防具を取り上げたら捕虜にするよう言った。
ロマアヤの重鎮やワイエンの人々は夕方まで帰ってこない。
ザンダは少ない人員を割いて、船に乗せるメンバーを急ぎ選んだ。
メレナティレはホッシュタスとテンギを本国へ連れ去ろうとしている。
そんなことになれば、シェブロン博士やノイ、トーハなどにも危害が及んでしまう。
「悪いが、ひとっ走り、ルビレムさんに知らせに行ってくれないか?」
「はい、早馬を駆って行って参ります・・・!!」
これでいい。
明確な指示を与えることで混乱を収め、メレナティレが船を出したら、こちらもすぐに船を出せるよう、人員・食料・燃料の調達を進める。
だが、ザンダ自身は当分、ロマアヤを離れることができない。
ファラやフィヲと旅を続けたかったし、師を助け出すために奔走したかった。
ここがまことに重要な局面である。
自身がゼオヌール公の嫡子であることを知った以上、また大多数の人々が頼りにして待っていてくれたからには、“LIFE”による建国を投げ出して行くわけにはいかない。
それこそ師に合わせる顔がない。
『先生、必ずイデーリアの民を連れて、そちらへ参ります。』
ザンダが本気でシェブロンの弟子を自覚したのは、実にこの時だった。