第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
ファラの“生命”に観ぜられたものが部分的な喪失なら、老婆ヴェサの“生命”に表れているものは不可逆的な衰亡だった。
誰人も避けられない生と死の実相であり、この世に生まれたことの最後の役目が何であるかを知らんと欲し、またそれを果たすために焦りを感じてもいる。
彼女にとって心配なのはフィヲのことばかりだ。
もう永くはいられない。
それでも別れるのはつらい。
ただ一つ希望があるとすれば、フィヲの近くにまた生を得たいということだった。
そのフィヲが幸多く生きるも、難敵に滅ぼされるも、少年ファラの戦い方・生き方いかんによるものであるとヴェサは考え、案じているのだ。
当のフィヲは、ファラと生死(しょうじ)を倶(とも)にできるならば迷いはないのかもしれない。
しかしそれは悪気のない利己心といえる。
ヴェサに育てられた彼女は、この老婆のただ一つの願いを聞き届けるべきである。
老婆の願いとは、フィヲがファラと二人で“LIFE”の実現を見、師シェブロンの志と理想とを継いでいってくれることに他ならなかった。
こうした期待を受けてみると、今のファラには自信がないのである。
全ての魔法を必要とする“LIFE”が、“フィナモ”なしで実現できるのだろうか?
もしできないとしたら、自分の生まれてきた意味は、これまで目指してきたものとは違ってしまったのではないか?
彼は自身の内で起こったことを知ってから、決して不安でなかったのではなく、万人に開かれた可能性である“LIFE”が不発に終わるかもしれぬという、絶望的な悲観と戦い続けていた。
“LIFE”の器として大成することこそ、師の大恩に報いる道だと信じて歩んできたのである。
ファラはシェブロンが自分を育ててくれたのも、“LIFE”の実現を託したいからだと思っていた。
生来、母譲りの素質はあっただろう。
しかしその器は、敵の手にかかって破壊されてしまった。
もう“フィナモ”は撃てないのだ。
これからの自分に何ができるのか、ヴェサとのやり取りでは答えを見出せない。
それでも、最後の希望だけはあると信じている・・・。