第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
「外国の船が来たみたいなの・・・!!」
「なんだって!?」
到着したばかりというのにザンダとフィヲが駆けて行った。
ヴェサはファラと二人になることがほとんどないので、この時とばかりに言った。
「“フィナモ”を失ったからと言って、自暴自棄になってはいけないよ。
お前が無茶をして、もしもいなくなったら、まず困るのはシェブロンさんだ。」
人は誰しも“宿命”というものを持っている。
善につけ悪につけ、“生命”それ自体に宿った何かであることは確かだ。
実際、少年ファラの内には、得がたい師に巡り合っても、教示を受け、訓練を受けても、幾多の戦場をくぐり抜けても、未だに断ち切ることのできない何かがあった。
今のヴェサの一言は、ファラの生命の奥の奥に潜在している、その「何か」を言い当てたものだった。
しかし、彼には深く入っていかない。
“宿命”とはまことに根深く、そう簡単に変えられるものではないのである。
まだ自覚のないファラは、ヴェサに言われた意味だけで受け止めた。
「ひとたび戦場に立てば、こちらが自他の“生命”を守り、尊厳を開かせるために戦っていても、生きられるか敗れるかは分かりません。
ぼくはただ、この“生命”が続く限り、守るべきものを守り、諌(いさ)めるべきものを諌め抜くだけです。」
ヴェサが言っているのはそういうことではなかった。
彼の信条は、シェブロン博士から教わった生き方としてきっと正しいに違いない。
しかしヴェサは、この世に生まれ、生きて、そして出会った可愛い孫娘のような存在、フィヲのことを、ファラに結びつけて言っているのである。
しばらく黙った後、老婆は再び口を開いた。
「お前は自分一人の生死(しょうじ)だと思っているのかもしれないが、“LIFE”と“縁”とは切って離せるものじゃないんだ。
お前が敗れて死ぬということは、フィヲをも道連れにすることなんだよ。
誰かに託すか?
誰がフィヲをあれほどまで生かした?
お前が全部、引き出してくれたんじゃないか。」
ファラは急に苦しくなった。
ようやく、この老婆が自分に言わんとしていることの真意が分かってきた。