第 09 章「無尽(むじん)」
第 03 節「悪鬼魔民(あっきまみん)」
メビカとウズダクは古くからの地名に由来する「ワイエン列島国」として共に国家を築くことにした。
彼らは帰還を明日に控えて、今回の戦役で唯一、犠牲者を出してしまったテンギの本隊周辺へ、弔いに行っている。
テンギの手にかかって殺された兵士の多くはセト兵で、次いで交戦を禁じられていたにもかかわらず手を出してしまったウズダクの兵、更にメビカの兵も、ファラとフィヲの到着を待てなかった。
生存者に詳しい状況を聞くとともに、イデーリアとワイエンは二度と軍人に国家を委ねることはしないと誓い合い、今後のテンギへの対処を含めて本国にいる遺族の元へ伝える。
シャムヒィの南方まで、ロマアヤの代表も一緒に出かけていったため、ブイッド港は過去に例がないほど静かな午後を迎えていた。
老婆ヴェサとフィヲで、ファラとザンダ、そしてドガァの手当てにあたっている。
ヴェサはよくしゃべる性質(たち)であったのに黙りがちで、時々手を止めて呆然としていた。
「・・・おばあちゃん、わたしがやるわ。
休んでいて。」
「お前・・・、よく無事だったねえ・・・、よく・・・。」
さっきから、何度もそう言うのである。
以前より気が弱くなったのが、少女の感じやすい心を痛めた。
これからはなるべく彼女のそばにいて、何でも聞いてあげようと思う。
だがそれ以上に気がかりなことがあった。
「ザンダもドガァもじきに治るだろう。
しかし、この子は・・・。」
フィヲは、容態を見ながらずっと気にかかっていたことの答えを、ヴェサが口にするのではないかと畏(おそ)れていた。
分かっているからこそ、言葉にしてほしくない。
まだ信じられないのだ。
よく整っていて、誰より“LIFE”の発現に近いと思われていたファラの“生命”に、どこか欠損があるようなのだ。
突然、フィヲは両手で顔を覆い、泣き崩れてしまった。
「一体、何をされたんだい、この子は・・・?」
当分、話ができそうもない。
ただ頭を振るだけである。
実際、フィヲにも何が起こったのか分からなかった。