第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
「つ、冷たい・・・。
体が、冷えて・・・。」
フィヲは慌ててホッシュタスを衝撃球で撃ち飛ばした。
わずかの力だけ残し、ほとんど全ての力を消耗してしまった。
「ファラくん、逃げましょう。
向こうのキャンプまで走って、体力のある誰かに、代戦してもらうしかない・・・!!」
必死にファラの体を魔法で温めようとしたが、ファラの体からは何かの力が奪われる一方で、苦しみを和らげるため、最後の力を振り絞ってヒーリングを起こすので精一杯だった。
ゲホッ、ゲホッ・・・。
テンギは水を吐き出し、苦しそうに咳を繰り返している。
ホッシュタスを足止めするためにテンギを水攻めにしたのに、自力で立て直すとは。
あるいは、5対の手足を持つように、肺もまた5つ、持っているのだろうか。
「フィヲ、先に行っててくれないか。」
「だめよ!
あなたはどうするの!?」
「いい、から、たのむ・・・!!」
また涙が滂沱と溢れてきた。
ファラの体にしがみつくフィヲを、起き上がったテンギが標的にしていた。
槍が振り下ろされる。
ガンッ。
ファラの無刃刀だ。
押し潰されながらも、フィヲを守った。
二人は死力を尽くしてしまったのだ。
もう抗う力は残っていない。
・・・その時である。
ロマアヤのキャンプの方から、獅子の咆哮が鳴り渡ったのだ。
松明(たいまつ)の明かりが見えてきた。
「ああっ、ドガァ・・・、それに、・・・ザンダ・・・!!」
ホッシュタスがザンダに向けて闇の攻撃魔法を放ったが、ザンダはドガァの背から高く飛び上がり、術士に向けて燃え盛る木の枝を投げつけた。
しまった、と思った瞬間に、ホッシュタスはドガァの牙にかかり、強靭な顎(あご)で噛み砕かれようとしたが、その寸前、ザンダが制止したため、地面へ放り出されて転がった。