第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
ガトレーンはファラの背後へ駆け寄っていた。
フィヲが道を塞ぐと、ロールウェールが半裸体にも関わらず飛び出した。
妨害は覚悟の上だ。
ガトレーン目掛けて、バリアを張ったまま、フィヲが長いロッドを一薙ぎすると、黒騎士はそれを難なく飛び越した。
ロールウェールが金属の小手でロッドの先を掴(つか)み止めてしまう。
その小手が高熱を帯びて溶け始めたので、女騎士は飛び退いた。
フィヲはなお、ガトレーンを追う。
連撃を受けて後ろへ倒れそうになるテンギに、ファラは更に一撃、顎(あご)を狙って突き上げた。
そして上へ振り抜き、自身は数メートル天を衝いた後、とどめの一撃を叩き込んだ。
兜割りだ。
魔法を帯びた剣でヘルムを真っ二つにされたテンギは、さすがにダウンかと思われた。
しかし、後方から単騎、馬を駆ってくる魔導師があった。
ホッシュタスである。
彼は何らかの魔法を立ち上げて、宝玉(ほうぎょく)の付いた杖で、矢のようにテンギの背中を射った。
すると、天と地とが再び激しく震撼して、テンギの体から異常な衝撃波が、何波にも亘(わた)って放たれた。
最も近くにいたファラが後方へ飛ばされる。
ガトレーンは大地にへばりつく。
フィヲはバリアに守られて、ファラの飛ばされる方へ駆け寄った。
ロールウェールについては、かなり遠くへ吹き飛ばされてしまったらしい。
「ファラくん!」
「フィヲ、気をつけて、この禍々しいエネルギー、ついにテンギが・・・。」
「え・・・!?」
二人が顔を上げると、炎の明かりに逆光となった異形の怪物の姿が、電光に照らされて不気味に浮かび上がっていた。
「キャアアアア・・・!!」
かつてない心痛とショックに、フィヲが思わず悲鳴を上げ、口を押さえた。
「大丈夫、落ち着いて、ぼくが付いている。」
ガトレーンも恐怖に打ち震えていたが、気違い染みた興奮を呈して立ち上がった。
「千手の鬼神テンギよ、受け取れ、安物の剣などあなたには似合わない・・・!!」
シュタッ、とガトレーンの名刀が投げられ、テンギの足元の地面に突き立った。