第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
午後6時30分。
日照時間はもう限界である。
フィヲはバーミナと兵士たちがロールウェールに遭遇しないよう、迂回しなければならなかった。
ロッドの先に火を灯して滑走する。
ほどなくして、ロマアヤの野営に近い木々の間に、彼女を探しているロールウェールの姿を見つけた。
ロッドの先からファイア・ボールを2発、3発、散弾させ、相手を誘導する。
ここが逃げ時だ。
猛然と追ってくるロールウェールから、どこまで逃げ通せるか。
フィヲは出せる限りの最速でファラのいる戦場へ向かった。
もともと、追い回される言われは全然ないのだ。
敵からの一方的な妨害であり、迷惑極まりない。
今、ファラがガトレーンと対峙して、一撃、一撃、相手の悪心を削いでいっているように、フィヲもロールウェールからの逃走劇を通し、相手の非を、嫌と言うほど分からせてやってもいい。
年齢によるものか戦歴を鼻にかけたものか、ロールウェールのフィヲに対する優越心は全くの慢心であり、別の角度から見れば、何らかのコンプレックスの裏返しとも言えよう。
フィヲはそうした相手の弱点をあまりひどくやり込めるようなことができない性質(たち)であったが、敵の捻じ曲がった心根の元凶がその一点にあるのなら、多少悔しい思いをさせてでも、内なる原因を示しきってやる以外、進展はないと意を決した。
ガトレーン、ロールウェールといっても、彼らの戦う目的は反“LIFE”であり、その行き方では誰人も良くなることなどない。
“LIFE”に生きる者を見て害意を抱くのは、彼らの言い分では、ファラたちに非があるかのようだ。
しかし、他者を害する、それも万人の生命の尊厳性を発現させようと奮闘する者を見て反感を起こすなどということは狂気の沙汰、悪魔の所為である。
その転倒(てんどう)を、あたかも正当化しようとするもののように、失地にしがみついて離れないばかりか、仲間を寄せ集めては、攻撃を繰り返す。
彼らに与えるべきものは完敗と消散であり、人間精神と社会の健全化のためには、少しの繁栄も許してはならない。