第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
「ファラくん、どうする?」
「いいよ。
しばらく見ていてほしい。」
超長身のテンギは素早い動きができない。
ゆっくりと歩み寄ってきた。
その破損した剣は赤黒い炎を帯びていた。
「テンギ、魔法は使うのか?」
「欲しければくれてやろう・・・。」
彼の手元から、重力球が渦巻いて現れた。
ファラは少しも動じない風に、球体へ向かって走った。
重力球に向かって剣を真っ直ぐ向けると、暗黒の渦は急速に、小さな点にまで収縮していく。
まるで剣に吸い取られるようである。
そしてそのまま、テンギの剣とファラの剣が交差した。
押し合うのかと見せかけて、ファラはすぐさま飛び退く。
すると先の球体が、二人の間で再び膨張を見せた。
後ろにさがったファラは吸引を避けたが、テンギは燃え上がる剣ごと、片腕が吸い込まれそうになる。
これでもし飲み込むことができたなら、ファラは幾度となく話に聞いた、母ムヴィアの「封印」を試してみようと思っていた。
動きの機敏さと、相手を上回る魔力で、押し切れるものなら躊躇している暇はない。
だが、テンギと対峙してからというもの、敵一人だけを標的として集中していたファラは、フィヲに気を配っていなかった。
そこに思わぬ邪魔が入ってしまった。
後方で、足手まといにならぬよう、じっと見守っていたフィヲに、一人の女が声をかけていた。
「しーっ、お嬢ちゃん、大きな声を出すと、あの子が死ぬわよ・・・。」
何の気配もなかった。
振り向いたフィヲは、見たこともない相手の身なりにショックを受けた。
黒と紫の鎧に身を包んだ女の騎士だった。
持ち物を見ると、かなりの魔法の使い手でもあることが察せられた。
声も出ないほど動揺したフィヲは、両手を取られ、後ろで縛られてしまった。