第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
テンギは十字の長い剣を両手に1本ずつ持っていた。
見るもの全てが敵だったし、現実に彼を取り巻くセト兵も皆、離反していった。
敵か味方か、誰が味方かも分からない混乱の中、一面に広がる地獄の様相に感応した兵士が、テンギの背後へ、じわりじわりと歩み寄っていた。
異形の軍人に対する恐れは当然あった。
だが突如、喉を震わせて獣の如く咆哮すると、テンギの脇腹目掛けて刺しに掛かったのだ。
血飛沫が辺りを染める。
兵士の体が崩れて倒れる。
テンギはなお、周囲にいたセト兵らを斬り殺した。
メビカの兵も、ウズダクの兵も、構わず斬り捨てた。
ウズダクのキャプテン・ハムヒルドは、決闘を挑む時と同じように手袋を投げ付け、テンギに向かって叫んだ。
「やい、セトの大将よお。
オレの子分どもを殺しておいて、タダで済むと思っちゃいまいなあ!」
猛然と斬りかかるハムヒルドを、ヌダオンは止めたりせず、かえって加勢した。
ワイエンの両頭領が、同じ敵に戦いを挑むのだ。
「ははは、我に歯向かう者はこの通り、見よ!」
ハムヒルドの五体が赤黒く破裂した。
だが消し飛んだのは右腕で、なんとか一命は取り止めていた。
「お前、無理をするなっ、しばらく休んでおれ・・・。」
攻撃を仕掛けようとするヌダオンの周りに、次々と部下が集まっている。
「何をする!
下がらぬか!!」
皆、顔を見合わせたり、首を横に振ったりして、言うことを聞かなかった。
「そ奴を止めねば、戦は終わりませぬ・・・!!」
ヌダオンも同感である。
奴を仕留めるまで、多少の犠牲は止むを得ないと思った。
「待って!
それは、メビカの旗ですね・・・!!」