第 09 章「無尽(むじん)」
第 02 節「所具(しょぐ)の法性(ほっしょう)」
ロマアヤ公国の復興に伴い、イデーリア大陸には“LIFE”の光が急速に満ちてきた。
長く争い続けたメビカ船団とウズダク海軍でさえ、世界の未来のためには停戦を選んだ。
しかし大セト覇国は依然として反“LIFE”であり、生命を抑圧する横暴な権力が今、外征大臣バツベッハの手に、そして陸軍大将テンギの手に握られていた。
少数民族地帯カーサ=ゴ=スーダの悲劇によりこの世に出現した鬼神テンギは、いわば生まれ出(い)ずることそのものを憎み、呪う。
西のズニミア半島から上陸したウズダクの兵、メビカの兵、更に両国へロマアヤから遣わされた元セト将兵ら、連合軍は、大セト覇国の右翼を一気に突き破り、ファラたちよりも早くテンギのいる本隊とぶつかった。
メビカの頭領ヌダオン=レウォはサザナイアから再三に渡り、テンギと交戦してはならないことを言い含められていた。
女将軍リルー、オオン、リダルオ南征衝の元将軍ジシュー、大将だったズンナーク。
彼らも当然のことながら無謀な戦闘は禁じられていたし、実際、戦うつもりもなかったのだ。
それからキャプテン・ハムヒルド、レスタルダはルアーズとアンバスにきつく言われていたし、ブイッド港の守備だったコダリヨン、女将軍ラゼヌター、メッティワもまた、テンギと剣を交えようなどとは考えていなかった。
生まれも育ちもセト国という元将軍たちは、ロマアヤ侵略の急先鋒だっただけに、いつの頃からか首都シャムヒィに雇われ居ついたという長身の気味悪い将軍テンギをほとんど知らなかった。
半島からの攻撃により、セト軍にとって、南から攻め寄せるだけと思われていたロマアヤの旗が、後方からも現れた。
そこにはメビカの旗、ウズダクの旗も交じっている。
セト軍はようやく挟撃に気付いた。
陣中にあって、テンギは猛り狂っていた。
面白くない報告が寄せられると、自軍の兵を斬った。
若い女を見つければその肉を喰らった。
セト国領内における戦闘は、鬼神テンギを中心に激化していく。
彼は、連合軍の標的とされただけでなく、セト国将兵らからも次第に憎悪されていったのである。