第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」
北から際限もなく攻めてくるセト兵らを、ロマアヤ兵、ウズダク兵、元セト兵らが攻め返していた。
兵士たちは心を一つに戦った。
ザンダ、ムゾール=ディフ、ルビレムを、少しでも早く軍都シャムヒィへ行かせること。
これが全員の思いだった。
ムゾールやルビレムは部下や仲間たちが戦場で猛然と戦う姿を見て心打たれ、自分も踏み止まって剣を振るいたい気持ちでいっぱいになった。
そんな時ザンダは、ライオンのドガァのように大声で叱責した。
「おい、こら、軍人!
いつまで戦争してるつもりなんだ!
一刻も早く終わらせるんだろう!!」
彼らとは別行動で、ファラとフィヲは北へ走っていた。
女兵士ナーズンが道を案内してくれる。
「ファラくんっ、戦う前に、消耗しないようにして・・・。」
「大丈夫だ。
真っ向から戦うだけが能じゃないよ。
きみもぼくも、兵士のみんなも、そしてテンギも、絶対に犠牲者は出さないって、誓い合おう。」
時々3人を見かけて寄ってくるセト兵がいた。
ファラはこう言った。
「お前たちの家族はロマアヤを大いに歓迎するだろう。
なぜだか分かるか?
憎らしい戦争を、ぼくらが終わらせるからだ!」
また別の敵兵に、フィヲは言った。
「あなたたち、生きるために戦うというのなら、ずいぶん多くの人を殺してきたのね。」
将兵程度ではファラとフィヲにかすり傷一つつけられない。
反対に、二人はあえて魔法を使うまでもなかった。
師であるシェブロンが授けたところの“LIFE”は、弟子であるファラやフィヲ、ザンダが教えを受けて持(たも)ち続けている“LIFE”と実に一つであった。
そして師と弟子が共に唱える“LIFE”を名づけて獅子の咆哮、すなわち“師子吼”という。
森を抜け、川を跳び越し、また森をくぐり抜けた。
夕闇の迫る北の空が、次第にはっきりと見えてきた。
「ああっ・・・、ひどい様相だわ・・・。」
遥かな未来、巨大化した太陽が、自らの宇宙を焼き尽くすという、終末の日を思わせるような赤熱地獄が、連綿と続いていたはずのセト国の村々を、メラメラと焼き払っている。
人の悲鳴か、獣の声か、聞き分け兼ねるおぞましい音声が、あちらからも、こちらからも、立ち上っていた。
ファラは額に汗を滲ませ、言葉にすることを恐れて、フィヲに声をかけることなく魔法を発動させた。
それはあまりにも酷たらしい凄惨な異臭から、彼女を守るためである。
「見なくていいよ。
さあ、テンギを探そう。」
フィヲの手が、その体重が、ファラの肩にのしかかってきた。
17の少女には耐え難い光景が現実に広がっている。
「しっかりして!
フィヲ!!」
「ご、ごめんね・・・。」
「他の場合だったらきみを守ってあげたい。
だけど今こそ、シェブロン先生との約束を果たす時だ。
恐れちゃいけない、これも確かに人間の一面じゃないか・・・。」
ファラはフィヲの手をしっかりと握り、炎の向こうに蠢く異形の怪物を見た。
千手の鬼神テンギは、封じられて2対の手足の姿をしているが、ファラの眼にはその本来の姿が、はっきりと映し出されていた。