第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」
「はっきりと言っておかなければなりません。
スタフィネルはかつて、ロマアヤ公国に対して軍事攻撃を行いましたね?
あるいは大セト覇国のロマアヤ侵略を支援しましたね?
わたしは、ウズダク国が今後も同じような行動を取るならば、何度でもスタフィネルを攻めるでしょう。
しかしそれは武力による攻撃ではなく、人道の上で非を責めるのです。」
レスタルダは再び黙った。
アンバスは続けた。
「あなたは“LIFE”をご存知ですか。
生きとし生きる全てのものの内に、限りない尊厳性を見つけて、開花させようとする哲理です。
2大陸に根付いた“LIFE”思想は、今や世界的な潮流となりつつあります。
人が人を殺す時代はもう終わるのです。
生きると言って、ただ生きるのではない。
内的資源の価値を大いに引き出し、享受する時代を作るのです。」
聞きながら薄笑いを浮かべていたレスタルダは、大声をあげて笑った。
アンバスはその彼の表情の中に、心から笑い切れない「つっかえ」があるのを見て取った。
そして再び黙るまで待った。
「世の中が変わっていこうとする時、よりよい未来を信じて行動する人がいます。
また、冷笑して様子を見ているだけの傍観者がいます。
更に、社会変革の理想が信じられず、反対する人がいます。
この三者に共通して言えることは、良い結果になれば反対しないということです。
行動する者は良い結果を喜び、称え合うでしょう。
傍観者は当たり前だと思って別に喜びも感じません。
反対していた者は極端から極端へ走り、時に過剰な賛辞をも送るのです。」
相手が俯いて何も言わないので、アンバスは重ねて言った。
「ヘッダフ基地の最高責任者として人の上に立ってきたあなたには分かるはずです。
二番目の傍観者と、三番目の反対者だけでは、何も変わらないばかりか、社会は堕落し、互いに不信に陥り、反目して、何物をも生み出すことはできません。」
レスタルダが口を開いた。
「今お前が言ったことを、ウズダクで一番よく理解するのは、おそらくキャプテン・ハムヒルドだろう。
一筆書いてみる。
ウズダクの者ばかり集めてスタフィネルに帰してやるといい。
俺はここに残って返事を待つ。」
アンバスは彼の手を取って深く感謝した。
それから言った。
「ルアーズのことを憎んでいませんか?
彼女はわたしの盟友なのです。
ずいぶん手ひどくやられたようですが・・・。」
「いいや。
俺はあのお嬢さんにサーベルを振り下ろした。
当たっていれば命を失ったか、腕一本はなかっただろう。
その一撃がかわされて、背中に蹴撃を受け、今度は正面に拳が入って鎧を壊され、ナックルで兜を割られた。
お手上げだ。
何回戦っても、俺は勝てはしない。」