第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」
一方、ウズダク海軍の中にも変動が起きていた。
対立国メビカが海賊の末裔であるように、ウズダクの民族もまた、起源は同じ海の民である。
大セト覇国との度重なる戦争の末、ウズダクは屈服し、セトの軍人ドルントを受け入れて大国の富を享受した。
以後10数年、ウズダク国の中心地スタフィネルは都市化によって大発展を遂げることになる。
彼らは大国の傘下にあって、メビカ船団に対しても強硬な姿勢を通せるようになった。
始めセトの属国となることに反発したウズダクの民も、次第に飼い慣らされて歓迎していた。
ところが近頃、ロマアヤとの戦況が芳しくないという。
セトの公言ではとっくに滅亡させて領土の一部までウズダクのものになるはずだった。
そればかりでなく、セトはウズダクに対して兵糧や兵器、兵員を要求してきた。
にわかにウズダク国内で不満の声が高まる。
同盟関係であるからには何隻もの軍艦を派して支援せざるをえなかった。
メビカの頭領がヌダオン=レウォなら、ウズダクにも船乗りたちを取りまとめる親分的存在がいた。
キャプテン・ハムヒルドと呼ばれている。
彼はメビカとの戦闘もセトとの戦争も一族の長として果敢に戦った。
誰よりもセトの下に付くことなど望んでいなかっただろう。
しかしワイエン列島という規模での小競り合いとは違い、大国との戦争はみるみるうちに国力を消耗した。
民の嘆きは際限もなく広がって、まるで全土から立ち上る呪いの声のようにハムヒルドの精神を苦しめたのである。
彼は大国セトに屈したのではなく、自国の民の苦しむ声によって、終戦を決断したといえる。
従属的な同盟関係を強いられた後、セト本国から人懐っこい軍人が送られてきた。
それがドルント提督だ。
ハムヒルドは民衆からの変わらぬ支持を得ていたため、セトはウズダクで最も危険な人物である彼に手出しができなかった。
それでセト国の海軍としての位置付けから、彼を艦長(キャプテン)としてドルントの下に置くことにした。