The story of "LIFE"

第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」

第 13 話
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20年ほど前、世界が最も混沌としていた頃のことである。

当時も大セト覇国がロマアヤ王国に対する侵略戦争を起こしていた。
隣国ウズダクは数度の交戦の末、セトに屈服。

それまでワイエン列島の覇を競ってきた相手が、突然、大国の後ろ盾を手に入れてしまったのである。

ある時、ロマアヤの王子がメビカの頭領ヌダオンを訪ねてやってくることになった。
相手は20代の前半、彼は40代の半ばだ。

ゼオヌール家の後継(あとつ)ぎなのであろう、父王は戦乱の最中(さなか)、この若い息子をメビカに派して、同盟関係を作らせようとしていた。
とともに、王子を国外へ亡命させようという意図もある。
セトの将らが執拗に王子の命を狙うのだ。

若者はまさに生きるか死ぬかという窮地に立たされていた。
将来の妃・リュエンナとはすでに交際を始めていたが、二人の結婚は誰もが叶わないだろうと嘆き悲しむ。
それだけロマアヤ王国は滅亡寸前の所にまで追い詰められていたのである。

王子は父王から、もし国外にあってロマアヤの敗戦を知ったならば、そのまま世界を旅して生き延びてくれと厳命されていた。

しかし彼は、愛するリュエンナを祖国に残し、このまま何もせず自分だけが逃げ延びようなどとは考えていない。
メビカの助けを借りて、きっと戦局を覆してみせると心に決めていたのである。

青年王子とメビカの頭領の、初めての出会いは、今ヌダオンが杖をついて坂を下り、首都ズマワービの町に入ろうとする、ちょうどその辺りでだった。

格好は立派だが、どことなく頼りない若者がやってきた。
ヌダオンは戦に負けなしと言われた一国の頭である。

ゼオヌールの家章を見てすぐにロマアヤの王子と分かった。

しかし世は動乱の只中、彼は船乗りたちを引き連れて荒々しく坂を下り、戦況次第では船に飛び乗ってウズダクを切り崩しに行こうかという折だった。

「ヌダオン=レウォとは貴殿のことか!
我はロマアヤの王子、ゼオヌール10世だ!」

一同、面食らって、血の気の多い者などまさに躍りかかろうとしていた。
当のヌダオンは、遠目に見ている間、面会に応じるまでもないと思っていたのだが、立ち止まった。
そして周囲に命令して、先に港へ行かせた。

「おう、倅(せがれ)だな。
用件だけは聞いてやる。
ただしここは見ての通り、王様の国じゃない。
大した席は用意できないぜ。」
「メビカ船団と対等に話がしたい。
そこの宿を取らせよう。」

ロマアヤ側の侍者が立って部屋を用意しにかかる。

ヌダオンは、年は若いが、大国の命運をかけて遣わされた王子が、年齢によって媚びることなく、ロマアヤの威厳を湛えた態度で臨んできたことに感心した。
そして相手が意図的に選んだと思われる言葉、ロマアヤから見ればメビカは小国であるにも関わらず、「対等に話がしたい」という一言で、完全に心を射抜かれてしまった。

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