The story of "LIFE"

第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」

第 08 話
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サザナイアは何度かの旅で顔見知りになった船長の一人に言った。

「ねえ、ワイエン列島はいつまでも対立状態でいいの?
どちらかが滅ぶまで争い続けるなんて、みんなの家族や子供たちにとって、あんまりだわ!」
「ヌダオンは何て言ったんだい。
俺一人で決められることじゃないんだ。」
「先祖も船団のみんなも納得しないだろうって。
本当にそうかしら?」
「確かに死んだ爺さんも親父さんも、納得しないだろう。
子供たちだって、戦争が好きなのさ。」
「そんなっ!
大人が戦争ばかりしているから、真似をしているだけよ!!
大砲を飛ばして、船が火を上げて沈む。
船と船を接近させて、サーベルで斬り合う。
セトはウズダクとメビカの抗争を、利用しているのよ!」
「ワイエンの海の底には、誇り高い海賊の骸(むくろ)が眠っている。
その上に住む俺らは仲直りしましょう、なんて言えないだろう?
子は親の仇(かたき)を討つために剣を覚え、潜りを覚え、操舵を覚えるんだ。
列島に生まれ、船とともに暮らす俺たちが、代々の戦いを忘れちまったら、何にも残らねえ。」
「ここだけじゃない、世界は今、変わろうとしているんです。
信じるもののために戦ったっていい、けれど、“生命”を奪い合うことはないでしょう。
一人の“生命”は、死んでしまえばそれっきりよ。
どうせ争うなら、生きて、本当にケリを着けるまで戦ったらどうなの。」

船長は答えなかった。
メビカ船団の中だけで生活していたら、一生聞くことのない話だったに違いない。

彼らは貿易と交通のために他民族と交わる。
思えば人類の歴史とは、進歩とは、異なる民族、異なる文化との出会いによって起こったのではなかったか。

マーゼリアとイデーリアという、二つの大陸の狭間にあって、メビカとウズダクは相争いながらも、人々の行き来に貢献してきた。

他の国が何を目指し、どう動こうとも、メビカはメビカ、ウズダクはウズダクで、これまではよかったのだ。

しかし今サザナイアが船長に語ったことは、どこかの国の勝手気ままなやり方の話ではなかった。
大セト覇国の民にも、ロマアヤの民にも、ウズダクの民、メビカの民にも、どうかして言って聞かせてやらねばならない、人類共通の、明るく正しい未来のための話だったのではないか。

ならば、自分もまた誰かのために話すべき責任があるのではないか。

どこよりも結束と仲間意識の強い海賊の末裔だったが、若く誠実な女剣士の真剣さに心動かされずにはいられなかった。

「分かった。
俺から言える範囲で、仲間にも話して聞かせてみよう。
それでどう言うか、何を思うかは、仲間たちの自由だぜ。」
「わあ、ありがとうっ!!
私は町の人に話していきます。
それでみんながどう考えるかを、集めて伝えに行ったら、ヌダオンさんもきっと聞いてくれるわね。」

船長は別れ際、帽子を取ってお辞儀しながら、サザナイアのことを「未来の大使さん」と呼んだ。
言われた意味が分かった時、彼女は心が通じたことの嬉しさに、頬を赤らめ、瞳を輝かせて叫んだ。

「必ずよ!
みんなを、船長の船で連れて行ってね!!」

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