第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」
一方、戦場でサザナイアに敗れたメッティワ将軍は、親友のラゼヌターが誘うので降伏したものの、心から従わないところがあるらしかった。
「お前たちのやり方は歯がゆい。
セトが悪国だというのなら、力に訴えて攻め落とせばいいではないか。
ウズダクの首都を砲撃すればいいではないか。」
ラゼヌターがすぐに説得にかかる。
「メッティワ、ロマアヤと剣を合わせてみてわかっただろう。
本当の戦勝は、殺した人数じゃない。
味方に付けた人数で決まるんだ。
ウズダクを全滅させるのと、全員を味方にするのと、どちらが国家の発展につながる?」
「民族は各々が目的観や価値観を持っている。
それを捨ててまで協力することにどれほどの意味があるのだ。」
「我々戦士も、元は民衆の子。
民衆は戦乱を願うだろうか?
お前も私もまだ家庭を持たぬ身だ。
しかし、民族に限ったとしても、子々孫々に栄えていくことが発展ではないか。
子が戦争で死ぬことは発展ではない。
人間はもっと賢明に目的を遂げ、使命を果たしていくことができる。」
「たしかにそうだ。
他の者が言うことならば聞くまい。
ラゼヌターがそう信じて行く道。
先に何が待っているかは分からぬが、協力するよ。」
二人の女戦士は互いに握手した。
ファラがあえて補足した。
「手と手を取り合える喜びは何にも代え難いものです。
元々信条の異なる人と人が、千差万別を乗り越えて共に生きていく道を、ぼくたちは“LIFE”と呼んでいます。
どうかメッティワさんも、異民族や他国民と分かり合える喜びを見つけていってください。」
彼女たちから見てもファラは年少の男子である。
その彼が真心一つで言ってくれていることに異を唱えるほど、メッティワにしても心が堕してはいない。
また降将たちはファラが戦場において発揮する計り知れない力を目に焼き付けていた。
剣技の上手さだけではない。
戦闘力を絶対視してもいない。
最も驚いたのは、ファラが敵に対し、時に大音声(おんじょう)で、時に激しく、どこまでも強く、そして奥の奥から包み込むような優しさを湛(たた)えて、真剣に呼びかけていることだった。
剣と剣が交叉する前に、こちらの剣と相手方の剣がどう違うのか、はっきりと言い切ってしまうのだ。
なぜ敵対しているかの本質を、ファラの側から相手に再発見させる戦いである。