第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」
大陸の本隊もついに動き出す。
ブイッド港からセト国の軍都シャムヒィへ攻め上がるロマアヤ軍は、最大の陣容を必要とした。
最初に天を衝く勢いを生み出すため総大将の活躍を見せたファラは、今度はフィヲとともに、最も危険な敵であるテンギを標的として行軍する。
また彼は内乱について、イデーリア大陸の問題であるから、できるだけ現地の人々を主導にしたいと考えている。
つまりロマアヤ公国の公子として復位しつつあるザンダ、老将ムゾール=ディフ、騎士ルビレムとその部下は本隊に投入することにした。
並行する、ウズダク国を味方にする戦闘は、最初アンバスとルアーズに託すとして、ロマアヤ軍内で旧セト国の将らの収拾が着き次第、援軍を送りたい。
その人選にあたり、会議の場で次の3名が推された。
まず、ロマアヤ軍のブイッド港への進撃を阻む役目を持たされていた将軍コダリヨン。
ザンダの意表を突いて「トゥウィフ」の発動でてこずらせ、ライオンのドガァに捕まった男である。
大剣と魔法を使う、珍しいタイプといえた。
「以前、ウズダクの首都スタフィネルへ赴くことが何度かありました。
デッデム配下の一将に過ぎませんでしたが、それなりに顔見知りもおります。」
ファラの問いは速い。
「メビカとの行き来は巡回船と同様、自由市国ミルゼオの管轄でしたね。」
「はい。
西側の港だけはミルゼオが統治しています。」
「では、ウズダク本島の南に港はありますか?」
「南側は航路としては海域が狭く、港はありません。
ウズダク海軍占有の港は、ブイッドとの連絡に使う東側を除くと、首都スタフィネルに隣接する北の港があるのみです。」
ブイッド港から軍艦を派してスタフィネル港へ向かうこともできるだろうが、その場合、追い詰められたウズダクが何をするか分からない。
逆にブイッドへウズダク船が攻め寄せるならば、どのようにでも対処できるだろう。
「ウズダクがロマアヤを敵視している限り、すぐ南方まで攻め込まれた現状、メビカとの戦闘も考えにくいですね。
やはり重要となるのは、陸路からスタフィネルをどう開かせるかになるでしょう。」
次いでラゼヌター将軍が立った。
彼女はデッデム直属の部下であったが、敗戦後、自分だけ本国へ逃げ帰った大将に見切りをつけてロマアヤへ降っている。
「私はコダリヨンとルビレム殿に敗北し、ザンダ様に命を救われました。
あの時自害していれば今はありません。
一度は死んだ身、私もスタフィネルには知人が数名おりますので、恐れることなく使者にでもなりましょう。」
「心強いことです。
現地ではルアーズさんが女性一人だったので、心配していたんですよ。」
弟的な存在のファラがこう言うと、昨日の敵も声を上げて笑った。