The story of "LIFE"

第 09 章「無尽(むじん)」
第 01 節「天変地夭(てんぺんちよう)」

第 03 話
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だがウズダクの司令官の荒々しい怒声によって、兵士らの心は再び戦闘鬼と化す。
このように、人心はいとも容易(たやす)くころころと移り変わって六道を輪廻している。

習慣、あるいは性癖とでもいうべきか、人は住(じゅう)する衆生世間の性質に深く染め上げられているものだ。

清浄なる対象に遭ってひととき目覚めた善性も、日頃の境涯の対境(=対象)に触れる時、またたく間に消え失せて元へ戻ってしまう。

ルアーズはウズダク兵たちの“生命”の上に一瞬だけ現れた善の様相も、それが消え失せた後の彼らの本性も、両方ともはっきりと観じとっていた。

そのため、相手の軍隊が躍り掛かるよりも1テンポ早く、先制攻撃に出た。

アンバスの攻撃型ロニネを帯びた彼女の格闘動作は、周囲の空間も敵兵らをも飲み込んで、まさにハリケーンのように、次々と驕れる心、すなわち敵方の慢心を吹き上げ、破壊し、粉微塵にしていった。

あまりの勢いに圧倒された二陣・三陣の後続部隊に向け、アンバスは容赦なく魔法をかけた。

立ち昇る光の柱が、彼の渾身の連続攻撃となって、正確に、リズムよく放たれる。
ブイッド港から船に同乗してきた大勢の兵士らも、ルアーズに続いた。

味方軍が通り過ぎた後、アンバスは倒れた兵士たちから魔力を奪いながら、叫んだ。

「セト国を落とす。
志ある者は力を貸してくれ。
民衆は紛争を好まない。
きみたちの武力も、軍事力も、もっと正しいことのために用いるべきだ。」

勝敗の決した戦場には、昨日までの仲間を助け起こすロマアヤ兵たちの姿があった。
こうしてセトの本土における戦闘と同様に、進むほど味方は増え、負傷者がいれば非戦闘員による手当てが施されていったのである。
入江に着けた船は新旧ウズダク兵で溢れ返った。

ルアーズたちは北上して早くも軍事拠点を落とし、次なる作戦、つまりウズダク海軍で唯一の城塞都市への進攻に向け、情報収集などを始めるに至った。

行政と生活の中心地である「スタフィネル」は北側に港を擁するウズダク国の要衝である。
そこを攻めるとなれば、軍人や兵士だけでなく、非戦闘員の人々の暮らしを脅かすことになるだろう。

慎重に慎重を重ねるだけでなく、当地の内部で起きるであろうさまざまな憶測、流言飛語、異常なまでの結束、排他性など、あらゆる危険を察知して行かねばなるまい。

混乱は混乱を生む。
まず誤報との戦い、情報戦を制していくべきである。

だが塞壁は固く閉ざされ、こちらから近付こうものなら全面的な抵抗に遭うことは必至だ。

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