第 08 章「星辰(せいしん)」
第 03 節「千手(せんじゅ)の鬼神」
非魔法使いの剣士や格闘家に対して、「全ての魔法の修得」を奨めるのである。
ヴェサは相手が武を志す者でなくても同じことを言ったに違いない。
その最強とは。
誰かと比較しての最強ではない。
自分としての最強でもない。
個性における最強でもない。
宇宙で最強の力を、実に個個が体現し得るのだ。
その力こそ“LIFE”である。
昼食も終わって、茶を飲みながらの一時(ひととき)だったが、そこへザンダが入ってきた。
「おう、ばあちゃん!
元気そうだね。
って、みんな、出方が決まったよ。
いったん会議にするから、ムゾールさんの部屋に来てくれ!」
レボーヌ=ソォラでの、タフツァとソマの投獄、国外脱出という慌ただしい事件があって以来、戦闘の第一線から退いていたヴェサだが、この日の会議にはどうしても参加すると言って聞かなかった。
フィヲはヴェサの消耗を心配し、できれば休んでいてほしかった。
戦場に出れば生半可ではない。
それはヴェサもよくよく心得ているはずである。
だが人生の最終章にあって、求めてきたもの、得られたものの全てを無為にはすまいという、“生(せい)への賛歌”が、老衰を押しても行動しようとヴェサを急き立てていた。
もう多くの時間はないのだ。
思想において最も成熟した今の時を、後に続く人々のために尽くしていきたい。
会議の席で、家老ムゾール=ディフから一通りの説明があった後、ヴェサが発言に立った。
「力に対して、より以上の力で捻じ伏せることを旨(むね)としているようだが、あんたたちはセトの将に『テンギ』がいることを認識しているのか。
背が高く、怪物のような太い四肢を持つという。
なるほどイデーリアの誰もがそんな姿を見たかもしれない。
だがあたしの目はごまかせないよ。
『テンギ』というのは、5対の腕と5対の脚を持つ怪人なんだ。
そんな奴を相手に、誰が力で勝(まさ)るっていうんだい?
ヱイユは今怪我をしている。
じゃあファラか?
ザンダか?
シェブロンさんの愛弟子を死なせる気か!!」
フィヲは、ヴェサがだんだん興奮していくので、その手を引っ張って止めようとした。
しかしその生命(いのち)を振り絞って話す真剣さに負けた。
ヴェサの言っていることが正しいと分かり、彼女が必死に訴えている内容が、本当に恐ろしくなってきたのである。
ファラが答えた。
「ぼくもそれほどの敵がいるのは正直、知りませんでした。
でも、だからこそ解決しなければなりません。
将軍テンギ、その人に非道な行いをやめさせなければなりません。」
続いてザンダが立った。
「シェブロン先生の弟子だから戦うんだ。
それで死ぬなら、本望じゃないか。」
ヴェサはすごい剣幕で怒鳴った。
「バカを言うんじゃないよ!
お前には“未来”があるんだ。
テンギは死ぬまで戦い続ける男。
こちらが奴を仕止めるか、全滅するか、どっちかだ。」
ムゾールも、騎士ルビレムも、生命に替えて大切な弟子を守ると言ってなだめようとしたが、ヴェサは二人が死ぬことも認めないという。
悩み抜いた末、ついにファラが意を決して言った。